「剣の腕も・・・頭の出来も・・・劣化コピーのお前が俺にかなう訳がねえだろうが! 情けねぇ・・・こんな奴に俺は全てを奪われた・・・俺は“ルークおれ”であることを奪われたんだ!」

「奪われた・・・?俺がお前を、“ルーク”を奪った・・・?」







押し付けた預言、奪おうとした命







七年前、誘拐されたヴァンは俺に言った。

「“ND2018──ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。 そこで若者は──・・・”実はこの秘預言クローズドスコアには続きがある・・・お前はその地で死ぬ運命だと言うのだ。 私はお前を私はお前を救いたいのだ!・・・心配はいらない。屋敷にはお前の複製レプリカを返しておいた。 あやつがお前の代わりに死の運命を遂げることになる」

そう言われても、俺は一度は屋敷に戻ろうとした、いや、屋敷の中に忍び込むところまでは行ったんだ。
それなのに、俺の居場所にはお前がいた!
俺のすぐ目の前で父上も母上もガイもナタリアもみんなお前を“ルークおれ”と呼んだ!
だから俺は屋敷にも戻れず、“ルークおれ”にも戻れず、燃えカスのアッシュとして生きて行くしかなかったんだ!

お前はヴァンにとって、アクゼリュスで俺の代わりに死の運命を遂げる複製品にすぎなかったんだよ!
何も知らないで親善大使だなんだと思い上がってアクゼリュスに急ぐてめぇの姿は、そこで俺の身代わりに死ぬと知ってる俺の目には馬鹿にしか見えなくて笑えたぜ?
どうせてめぇは死ぬんだよ劣化野郎!!ってな!


「・・・・・・なんかおかしくないか?それ」

身ぶり手ぶりを交えて涙を流さんばかりに熱く語っていたアッシュの過去の回想が、疑問符を浮かべたルークが放った言葉によって途切れる。
アッシュは激昂して頭の出来まで劣化した屑が、と怒鳴りそうになったが、その前にティア、ジェイド、アニス、イオン、ナタリア、ミュウまでもが おかしいわ、おかしいですね、おかしいよね〜、おかしいです、おかしいですわ、おかしいですのーと続けて頷くのに詰まり、 それでも激昂は抑えきれずに怒鳴るようにルークに問い質す。

「何がおかしい!俺はお前に全てを奪われたんだ!」

「いやいや、今の話なら、むしろ俺が奪われる側になるんじゃないのか?」

「そうよねルーク、あなたは命までも奪われかけたということになるんだもの」

ルークの言葉に再びティアが同意を返し、ジェイドたちもうんうんと頷く中で、何を奪ったのか把握していないアッシュだけが前にも増して激昂して怒鳴り始める。

「なんの話をしてやがる!?奪ったのはこいつだって言ってるだろうが!」

「アッシュ」

そんなアッシュの背中に哀しそうな、また疲れたような声音でナタリアが話しかける。
アッシュを“ルーク”だったと明かしたのに、暖かくも優しくもない声で彼女に呼ばれるのは不審だったし不快でもあったが、 それでもアッシュはルークやティアたちに向けていた怒りは納めて向き直り、なんだ、と幾分か柔らかい声で尋ねる。

振り返ってみたナタリアの顔は声と同じように再会した“本物”の婚約者に向けるには不似合いに哀しそうに眉が寄せられ、疲労が滲んでいて、 アッシュを一層不審がらせたが、それでもアッシュはその原因が自分にあるなどとは考えもしなかった。
ナタリアがアッシュを睨むように見据え、“奪ったもの”を突きつけたその瞬間まで。

「先程の話によれば、あなたは誘拐の直後にヴァンから、“ルーク”が七年後に鉱山の街で死ぬ秘預言が詠まれていることと、 入れ替えられたルークが代わりに死の運命を遂げることになるのを、はっきりと聞かされて知っていましたのね? そして、あなたはそれを知った上で、一度は屋敷に戻り私たちの近くに来ても、そして先日キムラスカ領のカイツールまで来ても、戻らなかった。 ルークが“ルーク”のままでいることは、生まれて七年後にあなたの身代わりに殺され、命も七年後以降の人生も全てを奪われることを意味するのだと、あなたは知っていたのに」

「“ルークおれ”であることを奪われた、ですか。 “ルーク”であることは、七年後に鉱山の街で死ぬ運命を遂げることだとあなたが知っていたのならば、こうも言えますね? “俺は七年後に鉱山の街で死ぬ運命の若者であることを奪われたんだ!” ──いえ、自ら戻らなかったなら、まして“七年後に鉱山の街で死ぬ運命の若者”だと思われているルークを目の前にしても出て行かなかったというなら、 ルークに奪われたと言うよりは、むしろ押し付けたと」

「黙れ屑が!」

ナタリアの言葉には呆然と聞いているだけのアッシュは、続くジェイドの言葉には怒鳴りつけたものの、 怒っているというよりただ自分の後ろめたさを誤魔化すために叫んだという感じの声になっていた。
アッシュの内心もルークへの感情も、全てを奪った複製品への侮蔑と憎悪に満たされていたのが揺らぎ、 何かが根本から突き崩されて行く様な不安を感じていたが、それでもそれを認めたり考えたりしたくはなかった。

ナタリアはやれやれ、と呆れたように首を振ったジェイドと、今にも飛びかかりそうなアッシュを止めるように間に入ると、 アッシュの逃避を諌めるように強く睨みつけて、再びアッシュの責めの欺瞞と残酷さを突きつける。

「ルークに全てを奪われた、と言いましたわね。 仮にヴァンがあなたに言っていた通りに事態が進んでいたとすれば、 あなたは“ルーク”の名や“ルーク”が持っていた多くを失ったとしても、アッシュとしての以降の人生は残りますわ。 けれどルークはあなたの身分とあなたが持っていた多くのものを持たされていたとしても、代わりに七年以降の人生すらも奪われるのです。 言い方を変えれば、あなたはルークが命すら奪われるのを容認することで、生き残ることができると思っていたということになりますわ」

「知らなかったならルークもアッシュも互いに何も知らず総長に奪われたとも言えるけどぉ〜アッシュの方は最初っから知ってたんじゃそれは通らないよねぇ」

「何が俺に全てを奪われただよ・・・・・・お前は自分が、“ルーク”が、“七年後に鉱山の街で死ぬ運命の若者”だと知って抜け出すために、 俺を身代わりにして、俺に押し付けて、俺から命すら奪おうとしてたんじゃねえかよ」

“全てを奪った”と思い続けていたレプリカから“奪った”と非難されたアッシュは、沸き上がってくる様々な感情を処理できず、癇癪を起した子供のように喚きだす。

「違う!違う違う!俺は、父上も母上もガイもナタリアもみんなこいつを俺だと思ってたから居場所なんてないと思って!」

「だったら居場所を奪った責任は私やガイや叔父様、あなたが誘拐されたままだと気付けなかった周りの人間になりますわ。 この七年間ルークに“ルーク”を名乗ってきたのも、私たちが“あなたはルークだ”と教え思い込ませたからこそです。 私たちがルークをあなただと思ったことに起因するなら、どうして私たちではなくルークだけを恨むんですの。 今まであなたが憎しみをぶつけてきたのはルークだけで、私やガイにはそんな様子は見せなかったのに。 当時のルークが作られたばかりのレプリカで、自ら“ルーク”を名乗ることも居場所を奪うこともできないことを知ってもいたのに・・・・・・。 ルークが自分の代わりに預言通りに死ぬことを知っていて、嘲りながら見ていた挙句、自分のレプリカだから殺す権利があるなどと、なんということを・・・・・・」

そう幻滅と嘆きを滲ませるナタリアの声を拒むように、ただアッシュは違う、違うと繰り返した。
その姿はナタリアが覚えている10歳の“ルーク”よりも幼く、弱く、見苦しく映り、もうあの約束は幻のように儚く消え失せたことをナタリアの胸に刻みつけ、 かつては共有していた暖かな思い出を、夢を、想いを凍てつかせ、失わせていった。


全てを奪おうとしたのは、どちらだったのだろう。
“ルーク”の暖かな陽だまりに止めを刺したのは、誰だったのだろう?













最初のヴァンの台詞は漫画「鮮血のアッシュ」より。
誘拐の直後から死の預言もルークが自分の代わりに死の運命を遂げるのも知っていて嘲笑していたなら、 自分が「アッシュ」として生き残るためにルークに預言を押し付け、ルークから全てを、命すらも奪おうとしていたとも言えます。
アクゼリュスに行ったのは回線からルークの思考を読んでヴァンがとんでもないことを企んでいるのかもしれないと思ったからで、 その前に「お前はそこで俺の身代わりとして死ぬんだよ」「どうせてめぇは死ぬんだよ劣化野郎」とルークを眺めていたのをみると、 聞かされていた通りにルークだけが死ぬのなら見過ごすつもりだったようですね。

「鮮血のアッシュ」ではアッシュ含む六神将が、東ルグニカ平野の (タルタロスの追跡路に位置して神託の盾騎士団の追跡を目撃した?)駐屯地のマルクト軍兵士を殺しまくっていました。
長期任務に出発した後に襲われたタルタロスと違い、駐屯地からの連絡が途絶えたら流石に発覚するのは早いと思うのですが、 皆殺しにして証人を消している上に、タルタロスが神託の盾騎士団に襲撃されたことをジェイドが伝えずに何カ月も経っているので、 犯人も犯行目的も分からず、マルクトやピオニーは戦々恐々としていそうです。
下手するとキムラスカの仕業と疑ってかかって和平路線が揺らいだり、過激な派閥がキムラスカと騒動を起したりして・・・・・・。





                        
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