俺はルークの親友だから。
そうルークの死を悼んだガイを、ルークの記憶を持つアッシュは睨みつけ、 次いで誰かを見るように空を見て悲哀を浮かべた後、嫌悪と怒りを込めた声で告げた。
「ずっとルークの命も心も軽んじてきたのは、父親役と、親友と、兄貴分と名乗るお前だろう。 お前にほんの少しでもルークへの罪悪感があるなら、その嘘と虚飾塗れの心に僅かでも真が残っているのなら、せめて親友、兄貴分、父親役。そう名乗るのを止めろ。 ルークの理解者だったような顔をするのも、あいつの保護者や護衛剣士だったように思い返すのもだ。 お前がそう振舞うことは、現実とかけ離れた幻想のお前を肯定し美化することは、ルークへの否定と軽視と、過去からの逃避の証にしかならないんだよ。昔も今も」
死者を鞭打つ誇りと嘆き
タタル渓谷にアッシュだけが帰還し、その口からルークの死が確定して一月後。
ルークの遺品を納めた墓所がバチカルに作られたと聞いたガイは、その墓前でルークの死を悼もうとアッシュの元を訪れ、 自分はルークの親友だから、あいつの父であり兄であり、今でも心の使用人なんだから、墓前で死を悼んでやりたいと告げた。
しかしアッシュはガイを睨みつけ、次いで誰かを見るように空を見て悲哀を浮かべた後、 嫌悪と怒りを込めた声でガイの頼み、兄貴分や親友の誇り、弟分の親友を亡くした嘆きや悼み、その全てを否定し拒絶した。
「お前がそれを言うのか。 お前は今でも、ルークの親友や、父親役や兄貴分や、心の使用人とやらのつもりでいるのか。 ・・・・・・やっぱりあいつが思っていた通りに、お前はルークを軽んじ、否定し、ルークとの関係に汚泥を塗りたくることしかしないんだな」
アッシュはまるで毒か泥でも飲んだかのように顔を顰め、剣を向けるような勢いでガイの眼前に指を突きつけると、吐き捨てるように言った。
「ずっとルークの命も心も軽んじてきたのは、父親役と、親友と、兄貴分と名乗るお前だろう」
意味が分からないと言いたげに不満げな困惑だけを浮かべたガイに、アッシュは分からないことにまた怒りを煽られたように視線の険しさを増しながら繰り返す。
ガイはルークの命も心も軽んじていたと。
父親役と、親友と、兄貴分と名乗りながら現実の行動は解離していたと。
どうしてこんなことも分からないのか。
何度も、何重にも、何年にも亘ってそんな言動を重ねていながらどうして気付かないでいられるのかと、無自覚さへの責めを付け加えて。
「俺はそんなことしていない!ルークの命や心が軽いものだなんて言ったことはないじゃないか!!」
「お前や、あの女がルークに望むことは何時も矛盾するな。 お前らはルークを無知だ、無神経だ、無思慮だ、人を気持ちが分からない、気遣いがないと散々に蔑んでいたのに、 ルークがお前らの行動をどう感じていたのか、ルークがお前らの本心を行動から推測すればどう思うかは分からないし、分かろうともしない。 ・・・・・・だからこそ、お前らは傲慢で阿呆なガキのまま、何時までも成長しないんだよ」
口では言っていないからしていないかのように、口で言ったから行動が伴わなくてもいいかのように。
ガイが、ティアが、彼らすることは何時も口だけで、表面を美しく塗りたくって誤魔化すばかりで、解離した裏面の冷酷で醜悪な行動を省みることがなかった。
屋敷への襲撃や譜歌での攻撃、殺すために騙すことの承諾や協力、見捨てるといった重大な、意図的なものですらも。
口だけで危害を加えるつもりはないと言えば、親友と称すれば、兄姉分のように振舞えば、 過去の真実など簡単に幻想ですり替えてしまえるとでも思い込んでいるかのように、忘れ去ってきた。
「俺はルークのことを親友だと思ってる!だから兄や父のように、あいつの側にいて、理解して、大切にしてきたじゃないか!! お前の中にルークの記憶があるのなら分かるだろう? 屋敷にいた七年間も、あの旅の間も、それにアクゼリュスが崩落した時ですら、 俺はあいつをちゃんと叱って、責任を認めさせて、見捨てずに迎えに行ってやったんだぞ!!」
「お前はまだアクゼリュスが崩落した時にお前がとった態度を“親友”だなんて美化しているのか。 随分都合が良いな。それこそがあいつを軽んじた行動だというのに」
アッシュは目前のガイの言葉からも、ルークの記憶の中のガイの言動からも、 耐えがたい腐臭が漂ってくるような錯覚を覚え、胸の中に沸く嫌悪感を吐き出すような口調で吐き捨てた。
「し、親友だと思えばこそアクゼリュス崩落の責任を認めさせようとしたんじゃないか! 俺にもあいつを甘やかして馬鹿に育てちまった責任はあるとは思ってたけど、でもだからこそこれからは甘やかさずに厳しくしようって、 ヴァンに利用されていても責任があるし、人の言うことを鵜呑みにして騙されたことにも非があるのに、ルークが往生際悪く認めないから・・・・・・」
「勘違いも甚だしいな。 ルークがヴァンに騙されたこと、アクゼリュス崩落に利用されたことへのお前の責任は、他にあるだろう。 ・・・・・・本当にお前は何も変わらないな」
逃げるな、認めろ、考えろ、背負え、甘やかさない、矯正してやる。
そうルークに要求しながら、ガイは何時も自分自身にはそれを実行しない。
そして口では言わずとも行動によって雄弁に、自分自身への逃避と甘え、他者への軽視と否定を語り続ける。
ルークが死んだ後にすら何の変化も見えないガイの歪な人格と、継続するルークへの軽視とに、アッシュは再び空を見上げてひとつ溜息を吐く。
ガイが親友と口にする度に、ルークにとった態度を肯定する度に、 自分で自分に汚泥を塗りながら綺麗だと陶酔しているような醜悪さと狂気を感じ、吐き気は増していくばかりだった。
「ルークに責任があったとしても、それは“ルークだけ”じゃなかったはずだ。 そして責任を認めていないのも、甘えていたのも、逃避や思考停止していたのも“ルークだけ”じゃなかった。 お前らはルークにばかり責任を認めさせて、自分が認めようとも、ルーク以外の仲間の責任を問おうともしなかった。 ルークばかりに変われと強いて、変わろうと努力するようすを上から見張ったり認めてやる立場にでもなったかのように見下してきて、 そのくせ自分やルーク以外の仲間にはそうしなかった。 それどころか、自分やルーク以外の仲間には責任や変わる必要がないかのような言葉や態度を繰り返してきた。 ・・・・・・中でもガイ、お前はルークの責任に、ヴァンに騙されたことにも利用されたことに、密接に関わっていたくせにな」
“俺は悪くねぇ!”
あの時、口に出してそう言ったのは確かにルークだけだった。
しかし人間の行動というものは時に言葉よりも雄弁に語り、心を、欺瞞を、奥底の本音を曝け出す。
例え口に出して悪くないと言わなくとも、自分の責任を認めず、それどころか自分に責任があることも隠蔽し、 自分は潔白であるかのように振舞い、責任を認めさせた相手とは違うと言わんばかりに見下して、 更には仲間の不審を誤魔化し、問いに嘘を返して追及を逃れ、自分が密接に関与した事についてすら無関係のように装っていれば。
“俺は悪くない!”
“私は悪くない!”
そう雄弁に語り続けているのと同義だった。
アクゼリュスの時だけではなく、幾度も、何重にも、彼らはそれを続けてきた。
かつてガイ自身があからさまなものしか分からないのは阿呆な子供だと言ったように、 ガイ自身に自覚がないことが余程の幼稚か阿呆にしか思えないほど、口で語るよりも雄弁にガイの心根は曝け出されていた。
「俺たちは、俺は、ルークが逃げたから・・・・・・認めさせるため、に・・・・・・ ジェイドも言ってたじゃないか、傷の舐め合いは趣味じゃないって!お、俺も同じようにしただけだ!!」
「ならどうして、自分たちの責任は認めない!?打ち明けもせずに隠蔽し続けた!! “傷の舐め合いはしない”だって?はっ!見当違いな逃避をするなよ。一見格好良さげな言葉で醜悪な本心を覆い隠す手にはもううんざりなんだよ!! 単に傷の舐め合いはしないから自分にも落ち度があってもルークに責任から逃げるのを許さない、庇わないというなら、 騙されていても利用されていても知らなくても責任があるというなら、 お前らはルークに幻滅し、責め、認めさせるだけではなく、お前ら自身もそうしなければならなかったはずだ。 だが、お前らはそうしなかっただろう。 自分たちもアクゼリュス崩落に責任を負っていると自覚することもなく、そんな自分たちも変わる必要があるとも思うことなく、 ルークの責任も、苦悩も、、変わろうとしていたことも、自分たちとは違う劣った馬鹿が仕出かしたことと見下していた。 共に変わろうとするのではなく、あいつの変化を上から眺めて認めてやる立場のつもりでいた。 お前らがルークを責めたのは、傷の舐め合いをしない主義なんて格好つけられるものじゃない。 自分たちの脛の傷は隠して、互いに舐め合って、あいつだけに傷を押し付けて、自分たちには傷がないように振舞っていただけだ。 ──特に、七年にも渡ってヴァンに、ルークがヴァンに騙され利用されるのに密接に関わっていたお前はな」
ガイが、ティア達が、ルークにも自分自身にも同じように厳しかったのなら、自分が同じ罪を犯していても傷の舐め合いはしないという論理もまだ分かる。
しかし彼らは、ガイは、ルークにのみ厳しいという態度をとり、自分自身と互いを甘やかし続けた。
そしてガイはヴァンとの同志という関係を、共犯を、アクゼリュス崩落とルークの利用への関与を、アクゼリュスが崩落してからもずっと隠蔽して、自分自身を庇い続けた。
ルークには責任を認めないことに幻滅しながら、彼らは、ガイは自分自身の責任を認めなかったし、互いを責任も追及も責めもろくにしなかった。
ティアが“外郭大地を存続させると言っていたじゃない”と叫び、明らかにヴァンの計画について事前に情報を持っていたふしがあっても、 もはや説得しようもないし例え成功したとしても処刑を免れないヴァンの今更の説得などという甘ったれのために貴重な機会と時間を浪費しても、 一方でイエモンたちの死にはその孫娘がいる船内で“落ち込んでいる暇はない”と言い放っていても。
アクゼリュスで住民の苦境の直中で“こっそり鉱石を持ってっちゃえば大金持ち!”などとはしゃいでいたアニスが、 アクゼリュスへの救援要請に向かうタルタロスへの襲撃に関与していたスパイと分かっても。
そしてガイがヴァンの同志だと、 即ち今までずっとヴァンに協力し、ルークを見捨て続け、ヴァンについての情報やルークへの危害を知っていて隠蔽し、 知らなくとも結果的にはアクゼリュス崩落にすらも関与していたと、 そしてアクゼリュス崩落の後にまでも、それらを貴重なヴァンの情報と共に隠蔽し続けていたと分かった時ですらも。
アクゼリュス崩落に、または別の形のアクゼリュス滅亡や、多くの人々が死傷する惨事に関わる行動であっても、 自分を、互いを責めず、自責もなく、打ち明けることも追及することもなく、ただ傷を舐め合うように甘え甘やかし続けた。
ルークには一度失った信用は簡単には取り戻せないと言いながら、彼らは互いを信用を失うことすらないかのように、ろくに追及も責めもせずに、簡単に受け入れた。
そんなルークの傷は責め立てて、自分たちの傷は舐めて甘えて庇っていた彼らに、ガイに、 傷の舐め合いは趣味ではないから庇わないという論理など到底当て嵌まるはずがなかった。
アッシュはふと、数日前に目を通した調査報告書にあった “傷の舐め合いは趣味じゃない”と言った
その
そもそもジェイド自身が、ガイの姉を含めたホドの住民への死亡や障害を残す危険のあるレプリカ情報採取や、 ティアの兄のヴァンへの精神を病みかねないほどの苛酷な実験を自分が指示していたことも、 その実験の成果がホド崩落の時の疑似超振動だったことも隠し通して、 フォミクリーの実験情報の管理状態すらもピオニーから聞くまで知りもしなかったというほど、 15年以上にもわたって自分の罪の結果に対して無関心に放置し続け、自分で自分を甘やかし続けていたというのに、 そんなジェイドの罪の自覚など、責任に対して厳しい言葉など、所詮他人に厳しく自分に甘いものでしかなかった。
ガイはまだ知らない様子だが、17年前にホド島で多発していた原因不明の障害や死亡、実験を覚えているホドの生存者からの証言、 17年前の姿を持って生まれた大量のホド人レプリカ、そして新生ローレライ教団が起こしたレプリカ情報採取による障害や死亡の多発を考え合わせて、 真相に気付きつつある人々はもはや抑えようもないほどに増えているそうだから、遠からずガイの耳にも入るだろう。
その時ガイは、自分が友と呼び、仲間として親しんできた人間の罪を、責任を、隠蔽を、態度を、公言していた自覚をどう思うのだろう?
「お前はヴァンの同志だった。 目的がファブレ家への復讐だと思っていたとしても、アクゼリュス崩落や本当の目的を知らなかったとしても、 お前はヴァンがルークに対して師弟の情など持っていないことも、悪意や害意を持っていることも、何れ利用して殺す気でいることも知っていた。 その上でお前は、ヴァンの主人としてヴァンの行動を承諾し、同志として協力した。 そして騙されているあいつを、悪意と殺意の元に騙され利用されかけていることを知っていて傍観していた。見捨てていたんだ。 ──それなのに、責任があるのはルークだけでお前にはないつもりなのか? ヴァンがルークを騙して利用しようとしているのを知って承諾し協力し傍観していた共犯者のお前には!? 知らなくても利用されていても責任があるなら、人の言うことを鵜呑みにして騙されたことにも非があるなら、どうしてお前はあの時それを打ち明けて責任を認めなかった!? 自分の非は全てを隠蔽し、自分には責任はないような面で通していたお前の態度は、口ではっきり言わなくたって、 “俺は悪くない、俺はヴァンがしたことにもルークがされたことにも責任はない”と言って逃げ出したのと同じなんだよ! しかも結局お前はグランコクマで素性が分かった時も、ルークがお前を信じようとした時も、何時も何時までもそれを隠し続け、 命を狙われていたと知って尚もお前を信じようとしたルークの気持ちを欺いたんだ!!」
ガイがヴァンの同志だった事実に、アクゼリュス崩落に使うことは知らなくとも、 ヴァンがルークに悪意を抱き、利用するために殺すために騙しているに過ぎないと知っていながら承諾し、協力し、傍観していた真実に対して、 無責任に、あるいは無頓着に振舞う態度は、ルークへの軽視を表すものに他ならなかった。
表面だけを見れば頼りがいのある親友や、優しい兄貴分のような言動さえも、 七年間の裏切りと、その結果と、更にその後も重ね続けている裏切りを踏まえて見れば、冷酷と欺瞞に満ちて映るものばかりだった。
「“奴の本当の目的を知るためには、奴の行動を洗う必要がある” ──アクゼリュス崩落の後にヴァンの情報収集のためにベルケンドに向かう前、俺がお前らの前でそう言った時も、お前は何も言わなかったな。 お前は幼馴染の弟分として、主従として、復讐の同志として、ヴァンの過去の行動を知っていたのに。 ヴァンの現在の目的を知るために、ヴァンの過去の情報が必要だと聞いても尚も、口を閉ざし続けた。 ──ああ、“ヴァン謡将”という人前での他人行儀な呼び方もあの頃にも使ってたっけな。 俺が嫌いだから俺のいる所で話さなかったって訳でもなく、ヴァンの目的を知っておく必要があると言っていたナタリアにも、 俺が抜けた後にも、再会したルークにも誰にも言わなかった。 あの女がヴァンを知っているのか、ホドで、と聞いた時にはルークの家で何度も会っているからだと誤魔化した。 そしてヴァンが明かすまで、決して自分からは打ち明けなかった。隠し続けた。ヴァンの情報を、ヴァンの手掛かりを。 お前はヴァンの幼馴染として主人として同志として、ヴァンについて多くの貴重な情報を持っていながら、自分の共犯と傍観を隠すために隠蔽した。 ヴァンが同志と暴露した後も、誰も追及しないのを良いことに共犯者や傍観者としての責任など知らん顔を押し通し、 一度としてアクゼリュス崩落の責を共に背負うこともなかった。 お前は何時だってルークだけの責任にし続け、自分の責任から逃避し続けただろうが!最期まで!!」
ヴァンとの関係を知られないため、他人を騙すための呼称を、共犯関係を止めた後にも使い続ける。
それも真実を知った後で思い返せば、未だヴァンとの関係を隠す意図を持って行動していたようにしか思えなかった。
話すべきことだったのに、話せばヴァンの目的を知る手掛かりになったのに。
ヴァンによってアクゼリュスが崩落してルークがその兵器として利用され、 シュレーの丘でヴァンがセフィロトの操作を阻む細工をして外郭大地の危機を止める妨害工作をしていると分かり、 全世界の危機という推測に至っても、何も言わなかった。
それどころかヴァンについて調べるアッシュたちの中で、如何にも何も知らぬげに過ごし、 ヴァン謡将の狙いが何かは分からないなどと手掛かりを隠していることなど億尾にも出さずに話してすらいた。
ティアにヴァンを気にすることを不審がられた時にも“同じホドの住人だし”と誤魔化し、 もしかしたら兄を知っているのかという決定的な問いにすら、“そりゃルークの家で何度も会ってるから”と嘘を吐き通した。
街ひとつを住民ごと滅ぼし、外郭大地そのものをも住民ごと滅ぼそうとしているヴァンの情報を、目的の手掛かりを、隠し続けた。
自分にとって都合の悪いことを隠すため、責められないため、爽やかな好青年のふりや親友ごっこを続けるために、ガイは全てを見捨て続けていた。
その口で“俺は何としてもヴァンを止めたい”などと言われても、あまりにも嘘臭く軽薄だった。
かつてガイはルークに、あからさまなものしか分からないのは阿呆な子供だとか叱ったことがあったが、 あれは自分のあからさまなものに、表面だけの親友や兄貴分のふりに騙される他人を阿呆だ嘲笑ってでもいたのだろうか?
「ああ、俺の中にはルークの記憶がある。 そしてその中のお前は、屋敷にいた七年間も、あの旅の間も、常に親友や兄貴分なんてものとはかけ離れて冷酷で無理解なものだったよ。 “ヴァンの同志としてルークを騙すのに協力していたけどルークの親友でした”、 “ずっとルークが騙されるのを見捨て続けて一度も助けませんでしたがルークの兄貴分でした”、 “殺すために利用するために騙して見捨てていたその結果をルークだけに背負わせて自分は知らん顔していましたがルークの父親役でした”、 “アクゼリュス崩落に利用された時ですらルークには責任を認めさせましたが自分は無関係顔で通して知らん顔で仲間と一緒にルークを馬鹿にしてました”、 “そうされたルークの気持ちなんて考えもしなかったけれどルークの理解者でした”ってか? どれだけ都合の良い傲慢な頭をしていたら、こうも現実とかけ離れた幻想をああも疑問も持たずに信じ込めるんだろうな」
ガイの上辺の親友や兄貴分や使用人の顔と、その裏面のヴァンの同志や共犯者としての顔は正反対だった。
ヴァンの同志や共犯者としての行動を自分から打ち明け、責任を認め、それが一旦を担った罪を共に背負い、変わろうとしていたならまだしも、 ヴァンの同志や共犯者としての行動をただ隠蔽しただけで、なかったことのようにしただけで、 自分から打ち明けも、責任を認めも、それが一旦を担った罪を共に背負いもしないままで親友や使用人のように振舞っても、 言っていることとやっていることが正反対な虚言者か、やったことに罪悪感や責任感など感じないで解離した綺麗事を吹聴できる冷酷者か、 あるいは現実を軽んじ幻想に耽溺し、何があっても自己に幻滅することなく、虚構を現実と盲信するに至った狂人としか映らなかった。
「口で言わなくとも、お前の行動は常にルークを軽んじてきた。 ルークと出会ってからアクゼリュスが崩落するまでの間は命を狙い、 そのためにヴァンに騙されるのを承諾して、協力して、見捨て続けて。 アクゼリュスが崩落した後は、ヴァンへの承諾と協力と傍観の結果を全てルークだけに背負わせて逃避して。 自分は責任も罪悪感もないかのようにヴァンの同志だったことを隠して親友顔して。 言葉よりも重く行動で、ずっとずっとルークの命も、気持ちも、何もかもを軽んじていたんだよ」
ヴァンとは手を切った、復讐はもう止めた、そう潔白のような顔をして喚くガイに、アッシュはまた空を仰いで音譜帯を見つめる。
もしも死後の世界というものがあるとすれば、己が死した後にすら逃避を続けるだけのガイの振舞いを、ルークはどう思っているのだろう。
「だからなんだ? 例えベルケンドのあの時にヴァンと決別し復讐を止めたとしても、アクゼリュス崩落以後はヴァンに協力していなかったとしても、 それまでのお前が復讐者であり共犯者だったことは変わらない。 それまでしてきた行動はなかったことにならない。結果や責任がなくなる訳じゃない。 それまでのお前が、ルークの親友や兄貴分などではなく、そう上辺を装っていただけで、何も知らないルークや周りを騙していただけで、 真実はルークの命を狙い、そのためにルークがヴァンに騙されるのを承諾して、協力して、見捨てて続けたことも、 その結果を全てルークだけに背負わせて、自分は責任も罪悪感もないかのようにヴァンの同志だったことを隠して親友顔していたことも変わらない。 復讐を止めることやヴァンと決別することと、それまでの復讐者やヴァンの同志や共犯者としての行動をチャラにすることは違うし、 “親友を装った復讐者であり共犯者”や“親友を名乗ってはいても裏で見捨て続けていた傍観者”から復讐者や共犯者や傍観者を抜いてただの親友にできる訳じゃないんだよ!」
過去は変えられない。
そしてガイは、過去に向き合おうとすらしたことがなかった。
ヴァンと決別してからも、一度としてヴァンの共犯者であった過去を、ルークを騙し、見捨て、ルークへの危害を肯定し続けた七年間を詫びることも悔いることもなく、 その結果が一旦を担ったはずのアクゼリュス崩落を自分の責任でもあると認めたこともなく。
上辺だけだった親友や兄の立場を何の躊躇いもなく自称し続け、アクゼリュス崩落もヴァンに騙され利用されたことも全てルークだけに背負わせ続けた。
けれど、ガイが共犯者や傍観者としての裏面をなかったことのように振舞おうと誤魔化そうと、アクゼリュス崩落を他人事のように扱おうと、決して過去は過去は変えられない。
そしてガイが過去に向きあわないとしても、自分の責任も罪悪感も感じていないとしても、他人は、ルークは、アッシュは違う。
「ルークはずっとお前に“騙されて”いたから、屋敷での七年間も旅の間もアクゼリュス崩落の後もそれを知らなかった。 だが、グランコクマやベルケンドでお前の正体と目的を知った時に、それに気付いたんだ。 復讐者で、ヴァンの同志で、共犯者で、詐欺師。それがお前の真実の姿で、親友も父親も兄貴分も全て偽りだったことに。 ・・・・・・そしてお前は、常にその罪や責任から逃避し続けているということに」
何時も復讐者やヴァンの共犯者としての自分を隠し、ヴァンに明かされた後はなかったことのように振舞うことで誤魔化し、 ルークを騙すことを承諾し、協力し、騙されているルークを見捨てたその結果からも逃避し続けていた。
ガイが復讐者やヴァンの共犯者だったと知った後のルークの眼に、そんな態度がどう映っていたのかなど、考えようともせずに。
ガイが称し、呼ばれるのを受け入れてきた姿は、何時も綺麗で立派なものばかりだった。
ルークの父や兄のような親友と、ルークを助けてやっていたと、あからさまなものしか見えないかのように上辺だけの美化に浸りきっていた。
けれどそれらは尽くガイが現実にとっていた行動からは、真実のガイの姿とは正反対なほどに解離していて、 上辺だけの美化に浸ることは現実の復讐者や共犯者、無責任や無理解からの逃避、ルークへの更なる軽視を表しては、更に真実のガイを醜悪で冷酷なものにしていった。
だからガイの逃避とルークへの軽視は過去のものではなく、ベルケンドでのヴァンとの決別の後も、ルークが死した今ですらも続くものになっていた。
「お前があいつの親友や、父親役や兄貴分、理解者のように幾ら上辺だけで言おうが振舞おうが、実際にとった行動は矛盾しているんだ。 そしてお前は、ずっとあいつを助けようとはしなかったし、アクゼリュス崩落までヴァンと手を切ろうともあいつを止めようともしなかった。 あいつが飛ばされたその日の朝も、ヴァンと仲良く密談して不信がるあいつを嘘で騙していたよな。 お前はルークよりヴァンを選び、自分の復讐を選び、ルークの親友や兄貴分や父親役より、ヴァンの同志で共犯者で詐欺師であることを選んでいたんだ。 そして復讐のことも共犯のことも、何時も自分からは打ち明けず隠し続けようとした。 アクゼリュスが崩落した後ですら、自分がヴァンと共犯だったことを、 ヴァンがルークを騙して利用することを承諾し、協力し、ルークを見捨てていたことも打ち明けず、 ただあいつに幻滅させるなと言って置き去りにし、迎えに来てやったと感謝を要求し、自分は潔白なただの親友のように装った。 グランコクマで素性と復讐を企んでいたことが分かった時ですら、ヴァンとの共犯や ヴァンがルークを騙して利用することを承諾し、協力し、ルークを見捨てていたことは打ち明けず、 それでもお前を信じようとしたあいつに対して、あいつへの裏切りを隠し続けていた。 お前は常に責任を負うことやルークと共に背負うことよりも、自分の共犯を責任を裏切りを隠すことを選び、あいつだけに背負わせ、 変わろうとするあいつを他人事のように上から眺め、説教しながら、自分はヴァンとの共犯者だあった過去に向き合おうとすらしなかった」
どれだけ虚偽を繰り返しても、虚偽は虚偽のまま。
虚偽を乗り越えて真実の親友になる機会すらも、嘘を嘘のままに隠し続けることで、信じようとしたルークを欺き通すことで自らドブに投げ捨てた。
その上でルークの親友だと百回言おうと、ルークを助けてやっていたと千回言われようと、理解ある幼馴染のように万回振舞おうと、嘘は嘘のまま真実にはならない。
ただ騙された人間が真実のように勘違いするだけで、それすらも勘違いである以上は真実に気づけば幻滅され、今度は騙された怒りや無責任さへの嫌悪を向けられる。
そして真実からかけ離れた虚偽を繰り返せば繰り返すほどに、親友らしくもくも理解者らしくもない行動を更に繰り返すことになる。
過去から真実から逃避して虚像におぼれたままでは、新たにルークの友になることもできず、 友とは解離した裏面をまた積み重ね、真実に気付いたものの不信と嫌悪を深めるばかりだった。
「ルークは幼く知識不足な所はあったが、記憶力と観察力は高かった。 過去の記憶を失ったと思われていたために、今度は見聞きしたものを忘れまいとしていたためもあるがな。 だからあいつは、お前が屋敷でとっていた不審な行動も、ヴァンへの態度も、そしてそれを笑顔で誤魔化したことも、全て記憶していた。 ヴァンとの密談をお前に誤魔化した時のことを、ヴァンとお前の稽古を笑顔で眺めていたことを、 親友はルークだと俺に言ったことを、兄貴分のようにルークに説教していたことを、アクゼリュスで幻滅させるなと言って置き去りにしたことを、 潔白のような顔でナタリアたちと同行しお前について話していたことを、アラミス湧水道で迎えに来てやったと感謝を求めたことを、 ベルケンドでヴァンから聞かされたお前の正体を前提にして思い出していた。 親友や兄貴分や父親役のように振舞っていた頃のお前が、表面的には優しそうに厳しそうに振舞っても、笑顔さえ浮かべていても、 常に自分を騙して、裏切って、ヴァンに協力して、そして見捨てていたことを思い出していた」
ガイが俺の親友はお前だ、俺が護ってやる共に罪を背負ってやると言われる度に、 ルークは何時も“親友”とは解離した過去のガイの真実を、“ヴァンの共犯者”の行動を、 騙されているのを護ろうとはせず、騙されるのに協力し見捨てていた行動の結果を共に背負わなかったことを思い出していた。
当時のガイはそれをレプリカだから遠慮しているとしか思わず卑屈になるなと責めるだけだけで、 自分の言葉の信憑性も、胡散臭さも、解離した己の真実の行動も何も省みようとはしなかったが。
「親友なら、どうしてその親友を殺すために騙し、騙されるのを承諾し、協力し、見捨て、命も心も軽んじて傷付けた過去から逃避していた? お前はヴァンの共犯者だった過去を悔いて、その責任を感じ、共に背負って変わろうとしたのではなく、 ただ過去を隠してなかったもののように振舞ってルークを騙し続け、ルークだけに罪や責任を背負わせ続けたままで口だけは親友だと名乗っていたに過ぎない。 アクゼリュス崩落の後も、ベルケンドの決別の後も、本当にルークの親友になろうとしたことなどなかったんだよ」
あからさまなものしか分からないのは阿呆な子供だと言い、ティアをちゃんと見て気持ちや性格を推察するように促しながら、 ガイの親友らしく見える所は薄っぺらい上辺のものぱかりで、実際の行動や裏面から推察できる気持ちや性格は解離していた。
「お前はルークが他人の気持ちを分からないとを責めていたな。 だがルークがお前の行動からお前の気持ちを分かろうとしたら、どうなった思う? ──お前はルークの友人だったと口では言うのに、行動ではヴァンの同志としてヴァンがルークを騙すのを承諾し、協力し、ルークを見捨てていた。 その行動の結果に罪悪感や責任もなくルークだけに背負わせて、ずっとそのまま親友を名乗り続け、他人からの父親役や兄貴分という称賛を受け入れていた。 ──親友や兄貴分が本当の姿だと信じようとすれば、過去の行動と現在の責任感も罪悪感もない態度が矛盾して、 お前への不信感と、お前が親友と呼ぶルークを騙しても傷付けても罪を背負わせても平気でいられるほど軽んじていることに打ちのめされる。 ──人の気持ちが推察できないのは成長していない、あからさまなものしか分からないのは阿呆や子供というお説教には 表面だけのお綺麗さご立派さで他人をルークを騙し、誤魔化し、裏切ってきたお前自身の態度が矛盾して傷付き、疑心と不安が蘇る。 ──復讐者で同志が本当の姿だったのだから、親友など偽りだったのだからと諦めようとするその側から、 お前の親友顔や理解者ぶった態度があいつを迷わせ、また信じたい気持ちの次には軽んじていることを過去と現在の言動に二重に思い知らされる。 ベルケント以降の、ルークがお前に持っていた気持ちはその繰り返しだ」
親友だと、兄貴分だと、何の躊躇いも罪悪感もなく名乗り、呼ばれるのを受け入れ、理解者や潔白のように振舞うことそのものが、 親友を、弟分を傷付けた過去への自覚のなさになり、軽んじていることを表していたのに。
何時も偽りの綺麗な自分しか見ようとせず、真実の自分の醜悪な危害や裏切りは都合良くなかったことにして、親友や弟分と呼んだ相手の犠牲の上の幻想に甘え続けた。
「お前の行動に、行動から推測するお前の気持ちに、混乱し、幻滅し、傷付き、打ちのめされて、 ルークは繰り返しお前に命も心を気持ちの軽んじられていると見せつけられ続けていたんだ。 お前がルークを裏切り、騙し、見捨てた真実から、その結果から向き合うことも責任をとることもなく、自分可愛さに逃避した、その結果だ」
自分をずっと殺そうとして、殺すために自分が悪意を持つ相手に騙されるのを承諾して協力して、騙される自分を見捨て続けて、 そして自分を殺すためにとった行動とその結果に何の責任も罪悪感もなかった人間が、親友と名乗るのを、信頼して受け入れられるだろうか?
そんな人間に生きることを考えろと、口だけで命や気持ちを尊重するようなことを言われて、そのままに受け取れるだろうか?
ガイはずっと、何年も何度も何重にもルークを裏切り、ルークの命も心も軽んじていた行動に向き合うことがなかったのに。
「最期にルークがお前に対して抱いた気持ちを教えてやろうか。怒りと、恨みと、絶望だ。 “やっぱりガイは、俺の気持ちも、命も、どうでも良いほど軽んじていたんだな”ってな!!」
信じられないことを聞いたとでもいうように、あるいは信じたくないと否定するように驚愕を浮かべて首を振るガイに、 アッシュは「お前はルークから悪意を受けないとでも思っていたのか」と吐き捨てると、逃避を許さないうように距離を詰めた。
ガイに近付けば悪臭が増すような不快な錯覚がしたけれど、それよりもルークの墓前でまで、 この善意に見せかけた悪意を、嘆きに見せかけた軽視をまき散らされることの方が耐えがたかった。
「“帰ってきたら、心の友に隠し事するような根性を矯正してやるよ”──そう言っただろう。 お前はあいつと出会ってからの七年間、ずっとヴァンがあいつを騙していることを隠し続けて協力していたのに、 その結果アクゼリュス崩落に利用される一端を担った後も、それを隠し続けてあいつだけに罪を背負わせていたのに、 グランコクマで復讐者だった分かったお前を尚も信じようとした時にすら、ヴァンとの共犯は隠し続けて、その責任や結果をなかったことのように振舞い続けたのにな。 お前はあいつを何重にも危うくする“隠し事”を何度も何重にも続け、決して自分からは明かさなかったことへの罪悪感や責任感などないままで、 “心の友に隠し事するような根性を矯正してやるよ”と言いやがった。 あいつが死ぬかもしれないと察していてすらも、お前は最後まで変わることはなかった。変わろうとすらしなかった。 結局お前は、最後まであいつに冷酷で、自分には甘い態度を貫き通した」
ガイの裏切りを知ってからも、ルークはずっと待っていた。
ルークを騙し、ヴァンがルークを騙すのを承諾し、協力し、そしてヴァンに騙されているルークを見捨ててきた事に、ガイは悔いや謝罪を表すことを。
それが結果的に一端を担ったアクゼリュス崩落をルークだけのせいにして上から見下すのではなく、 ルークだけのせいではなかったのだと、自分にも責任はあったのだと認めて、共に背負うことを。
そして、ただの親友や兄貴分などではなかったと、理解者でも助けてやってもいなかったと、 ガイが自身の過去に、真実ガイがルークに為した裏切りや危害や傍観や逃避に向きあうことを。
幻滅しながら、失望しながら、それでも擦り切れた期待を抱き続けていた。
受け続けた恐怖と否定で問いを塞がれ、繰り返される裏切りにもう気持ちの推察すら苦痛になったルークには、待ち続けることしかできなかった。
そしてルークの抱く疑念も悲哀も、恨みも怒りも、考えれば気付けたはずのものだった。
ガイが自分の行為に、過去に、ルークに為した数多の裏切りに向き合ってさえいたならば。
“俺はヴァンがルークに悪意や殺意を持っていることも、騙していることも、利用しようとしていることも知っていた。 七年間ヴァンの行動を承諾して、ヴァンに協力して、ヴァンに騙されているルークを見捨ててもいた。 でもヴァンがルークを利用して何をしよう何が起ころうと、俺は悪くない!!”
そう口で言うよりも雄弁に行動で語り続けるガイが、変わるのをルークはずっと待っていた。
──けれど、ガイは結局そうしなかった。
過去から決別すれば過去の悪事も汚点も消えたとばかりに、罪も責任もないかのように、相変わらずの態度を取り続け、ルークの親友や兄貴分を称し続けた。
恋人でもなんでもないし好意とは程遠い態度をとってきた女の前で他の女を気遣えば凄く傷付けている、 そんな女を優先して他の女への気遣いを控えるべきだなどと、 理解しがたいことにまで理解を求め、理解できなければ未熟だなんだと責めすらしていたくせに、 当の本人は散々騙して裏切って見捨てていた相手を傷付けたとも思わず、優先すべきだった事柄を放り投げて忘れ去るだけで、 何時だって可愛がるのは自分、いや自分自身ですらなく、何処にも存在しないお綺麗で醜悪な幻想の自分像だけだった。
「ルークがお前を責めなかったのは、ヴァンとの決別ぐらいで全てをなかったことにしたからでも、 お前を許したからでも、過去を呑み込んで受け入れたからでもない。 アクゼリュス崩落の時にお前が共に背負うべき罪をルークひとりに背負わせことや、 あの女への態度だの他の女を気遣っただのと理不尽に責められ続けたことが、あいつの口を塞いでいたからだ。 本音をぶちまちけたって、また幻滅したとか甘やかしちまって馬鹿に育ったとか誤魔化されたり、 気持ちが分からないとかなんとか理不尽に責められるんじゃないか、そう諦めと恐怖を抱いたから言えなかった。 ──そしてお前が、何時も自分から告白することなく他人の口から明かされてから往生際悪く認めるだけだったお前が、 今度こそ自分から告白して認めるのを、待っていたんだ。 何度も裏切られても、失望しても、お前を完全には見限れず、そして最後まで変わらなかったお前に絶望し、 死後までも否定と軽視が続く未来を予想して、怒りと、恨み、絶望を抱えたまま、消えたんだ」
グランコクマでガイが復讐者だったと分かっても、それでも信じようとしたルークのガイへの信用は、 何度も何重にも欺かれ、失われ続けて最期には空っぽになり、二度と取り戻すこともできなくなった。
ガイが吹聴していたルークとの親友や兄貴分の関係は、 何度も、何重にも汚れ続け、腐り果て、最期には堆積した汚泥で埋め尽くされ、二度と変わることもできなくなった。
それなのにガイは、信頼を更に裏切り続け、関係を汚し続け、現実を、現実のルークを、現実の自分自身までもを軽んじ続けることを止めも恥もしない。
ルークの予想通り、ルークが死んだ後にすらも。
「ルークは、自分の死後にお前が、口先だけは嘆くことを予想していた。 まるで大切な親友を亡くしたように、可愛がっていた弟分を亡くした兄貴分のように、振舞って、 そうすることで弟分を、親友を、殺すために騙し、騙されるのに承諾し、協力し、見捨てていた過去から逃避して、 ルークが死んだ後にすら自覚も反省もせずに、その命も気持ちも軽んじていると行動で語り続けることを。 お前のそれまでの行動と、最期の言葉から予想して、それを嫌悪し恨みながら逝ったんだ」
アクゼリュス崩落の時も、ルークが復讐者と知ってガイを信じようとした時も、変わらず自分の裏切りを隠し続け、 最期まで向き合うことがなかったガイには、もう挽回の余地など期待できない。
畢竟、ガイにとってルークは裏切りや傷付けることに良心の呵責を感じる相手ではなく、普通の仲間や対等な親友の関係になどなりようもなく、 ガイが虚言で惑わし、無情に利用し、裏切りを重ね、現実も真実も無視して己が幻想に耽溺した後に、 ルークに残ったのは傷付き蝕まれた心と、死後に至るまでの絶望だった。
そしてルークが死んだ以上、もう永遠に変えられない。
一度失った信用は簡単に取り戻せないとティアは言ったが、死者からの信は二度と得られない。
新しい関係を築くことも、絶望を和らげることも、謝罪や過ちを認める言葉を届けることもできない。
自覚も、後悔も、失った信を取り戻すことも、もう何もかもが手遅れだった。
他人に酷薄なくせに自分には甘く、己が傷を舐め続け、現実に向き合わず幻想に耽溺していたガイの行動の結果は、 ガイの何もかもを拭いようもなく貶め汚して歪めていった。
もうルークの墓前で父や兄や親友のように死を嘆くことすらも、ルークを死後にすらも軽んじ続ける正反対の行為にしかなりえなかった。
だからアッシュは今、ルークの墓所に行こうとするガイの肩に骨を折らんばかりの力で掴みかかり、 聴きたくないと耳を塞ぐ手を抑えつけ、逃げようとする足を踏みつけてでも、自分の中の自分のものではない怒りを、嫌悪を、恨みを、絶望をぶつけている。
せめてルークが死後にまで抱いた絶望だけでも防ぐために、ルークの予想通りにするだろうガイを止めている。
ルークがずっとガイたちに伝えたくて、理解って欲しくて、けれどガイたちに植えつけられた恐れと諦めでとうとう口に出せなかった、本当の気持ちを刻みつける。
「ずっとルークの命も心も軽んじてきたのは、父親役と、親友と、兄貴分と名乗るお前だろう。 散々にルークの命も心も軽んじて、そういう行動をあいつに見せつけて、それに向き合いも悔いも謝罪もしなかったそのお前が、 あいつの死を父や兄や親友のように悔いるなんて、傲慢と欺瞞以外の何物でもないんだよ!」
本当に傲慢だったのは、あからさまなものしか分かっていなかったのは、分かろうともしなかったのは。
「お前にほんの少しでもルークへの罪悪感があるなら、その嘘と虚飾塗れの心に僅かでも真が残っているのなら、 親友、兄貴分、父親役。そう称することでルークにした危害や傍観を無視し、ルークの命も心も軽んじ続けるのは止めろ! ルークの理解者だったような顔をするのも、あいつの保護者や護衛剣士だったように思い返すのもだ。 お前がそう振舞うことは、お前がお前自身を醜悪な現実とかけ離れたお綺麗な幻想で飾り立てて陶酔することは、 現実からの逃避と、責任の放棄と、ルークへの否定や軽視にしかならないんだよ。昔も今も、そしてこの先も、永遠にな!! ・・・・・・せめてあいつが死んだ後にぐらい、汚れきった過去に、ルークとの過去に、更に腐った汚泥を塗りたくるのは止めたらどうなんだ!?」
ガイとヴァンの関係を不審がるティアと、誤魔化すガイの会話はスキット「同郷」より。
どうもあの辺りのガイの言動を見ると、ガイは意図的に、ルークにもティアたちにも自分とヴァンの関係 (ひいてはルークを騙していたことなどのヴァンとの共犯関係、ルークへの裏切り、結果的なアクゼリュス崩落への関与)を隠蔽しようとしているふしが感じられます。
・・・・・・ここまでやっといてベルケンドでの暴露後すら、何故隠そうとしたのかを全く説明せずについてきて、 共犯やアクゼリュス崩落について責任を感じているようなふしもなく、ルークへの自称親友や上から目線を変えないって一体何どういうつもりだったやら。
最後の「心の友に隠し事するような根性を矯正してやる」ってどの口が・・・・・・一見良い台詞のようですが、 ガイ自身のルークに対する「隠し事」とそれに関する態度を前提にすると、とんでもなく残酷な台詞に思えてしまいます。
きっとガイの中の辞書には「真」とか「誠実」とかいう項目はない。
これに限らず、ガイは一見友人ぽく振舞ってはいても実はルークに危害を加えたり危害を見捨てていたり、 それらを隠蔽していたり、自分が一因になったことすらルークだけのせいにして背負うこともないままで、 親友や兄貴分を称し受け入れるという表面的で歪んだものが多かったのを考えると、 一見良さげな態度をとっていても裏に悪意や策略があったのではと疑わしく思えてしまいます。
例えなかったとしても、そういう前提でそういうことを悪意なく言える人間性だとすれば、それはそれで問題ですし。
ジェイドがフォミクリーの実験情報を誰が管理しているのかすら知らなかったのは漫画「追憶のジェイド」設定より。
作中ではフォミクリーを開発した事ばかり言われていますが、ジェイドは開発しただけではなく実験にも参加して、 ホド住民へのレプリカ情報採取を指示してもいたので、フォミクリーの実験情報を誰が管理しているのかすら知らなかったということは、 自分が関わっていた実験情報の管理状態にも無関心だったということになります。
「自分の罪を自覚しています」って一体・・・・・・?
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