※恋愛色や描写はないものの黒アッシュ×真正ナタリアがありますが、真正ナタリアは幼女です。
※見ようによってはアシュ→ルクにとれるかもしれません。







──解放してくれた礼に、お前だけでなくもうひとり、誰かを生き返らせてやろう。


──XXXか?・・・・・・残念だがこの子は駄目だ。本人が戻ることを望んでいない、XXXはもう疲れきって眠りたがっているのだ。
お前の望みは叶えてやりたいが、この子の望みに反することはしたくない。


──ずっと前に死んだ奴でもいいのかって?もちろんだ。・・・・・・わかった。XXXXを生き返らせればいいんだな。







跳ね返る行いと言葉







「アッシュ!御帰りなさいませ、ああ、私ずっと待っていましたのよ!」

タタル渓谷に現れた赤い髪の青年が自分をアッシュだと名乗った瞬間、ナタリアは歓喜の表情を浮かべてアッシュに駆け寄った。
しかしアッシュはナタリアにただいまを言うことも抱き締めることも、微笑むことすらなく、顰め面でナタリアの喜びの表れだった行動を冷たく咎める。

「大きな声を出すな。こいつが起きる」

「え?」

帰ってきたのはアッシュひとりなのに誰のことかと怪訝そうになったナタリアやジェイドたちが周りを見回していると、 アッシュが抱えていた白い布の中で、あーと小さな声がした。

「あ、赤ちゃん!?」

「この子は“ナタリア”だ」

その奇妙な返答に、ジェイドたちの視線が一斉にナタリアに集まり、 自分の名前で見知らぬ赤子を呼ばれたナタリアは、自分にはないキムラスカ王族の印の色、赤い髪と緑の眼を持つその子を呆然と凝視する。

「22年前に死んだ、“本物のナタリア”だ」





「ああ、“ナタリア”!わしの“ナタリア”!」

インゴベルトは人目も構わず、頬を滂沱の涙で濡らし、ひたすら腕の中の赤子の“娘”に呼び掛ける。
その光景から目を逸らし、青褪めている“娘”の様子に気付くこともなく。

「アッシュよ、感謝するぞ。よくぞ“ナタリア”を生き返らせてくれた!」

「いえ、“ナタリア”は私にとっても大切な“本物”の従妹。“本物のナタリア”に会えたことは私にとっても歓喜の極みにございます」

アッシュが“本物”とつける度に、ナタリアは傷付いたように眉を顰めてアッシュを睨む。
それにもやはりインゴベルトは何も気付かず、アッシュは気付いていながらあえて気付かぬふりを装って無視をした。

「だー、あー」

「おお“ナタリア”、父が分かるのか?」

あどけなく笑って手を伸ばす“ナタリア”に、溶けそうなほど相好を崩してあやすインゴベルトは、 ナタリアに声をかけることも慰めることも、笑いかけることも、視界に入れることすらなく、 ただ“ナタリア”にだけ優しくあやして、声をかけて笑いかけて、他のものなど目に入らぬように見つめ続けた。





「・・・・・・では、今日もお父様はあの子のところに?」

「は、はい。お茶には友人でも呼ぶようにと仰せられて・・・・・・」

インゴベルトへの使いから戻ってきた侍女の望まぬ返答に、ナタリアは扇を軋む音がするのも構わず強く握って唇を噛んだ。

以前なら、自分の誘いには無理をしてでも来てくれたのに。
断るとしても侍女に言付けるだけではなく、贈り物や手紙をつけてナタリアの機嫌を損ねないように気を遣ってくれたのに。

以前と現在との父の態度の変わり様と、以前は自分が受けていた愛情を奪った存在がいることへの嫉妬に、 人目も構わず泣き出したくなったのを辛うじて抑えると、家族に等しい近しい身内にして愛する男を支えにしようと口にする。

「ではアッシュを誘いましょう。ファブレ公爵邸へ使いを出しなさい。今日はアッシュがベルケンドの視察から帰って来る日でしたわね」

「そ、それが・・・・・・その・・・・・・アッシュ様も、先程国王陛下と、・・・・・・あちらの“ナタリア”殿下の所に、行かれて・・・・・・」

何度目か分からない希望を打ち砕かれる痛みと怒りに、ナタリアは思わず骨の折れた扇を乱暴に投げ捨てる。
癇癪のとばっちりを恐れたのか侍女はそそくさと退出を乞うと、許可も待たずに逃げていき、 その以前はしなかった無礼な振舞いが更にナタリアの心の痛みと惨めさを掻き立て、癒してくれる存在を見出せないことがまた寒さを増して行った。

使用人も臣下も以前はしなかった無礼や陰口をナタリアにするようになり、優しかった友人たちもナタリアの誘いを空事じみた理由をつけては断るようになった。
そして揃って“ナタリア”には贈り物だの追従だのご機嫌伺いだのと、以前のナタリアにしていたものを乗り換えるように向けていく。

幼馴染で、従姉弟で、婚約者で、ナタリアと過ごした何年もの時間が、思い出があるはずのアッシュまでが。

ナタリアが“ナタリア”ばかりを可愛がる父をみるのが辛いことも、“ナタリア”の部屋には行き難いことも、 インゴベルトの変わり様に悲しい思いをしていることも気付いているはずなのに、 アッシュはそんなナタリアを気遣ってくれることも、周りを諌めてくれることもなく、 避けるように話はおろか顔を合わせる機会すら公式の場以外では殆どなくなっていった。
そしてナタリアを“本物のナタリア”と呼び、“本物のナタリア”の側にいてやりたい、 “本物のナタリア”を支えてやりたいと何かと口にしては、その度にナタリアが傷付いているのも気遣ってはくれない。

何故、何故、あなたは私の側にいないのです。
何故私の前であの子を本物と呼びあの子の側に行って、何故私から離れ私を独りにして。

今もアッシュは“ナタリア”の部屋で、インゴベルトと共に“ナタリア”を優しくあやし、 “本物のナタリア”と呼んでいるのかと思うと胸が張り裂けそうで、 どれだけ部屋を暖めても凍えきったように堪らなくて、この城の中にいることすら耐えられなかった。
アッシュを連れて何処か誰もいない所へ、変わってしまった父からも周りからも“ナタリア”からも、全てから逃げだしてしまいたかった。

それでも、アッシュの婚約者は自分なのだ。
国王となったアッシュの隣に王妃として連れ立って、あの約束を果たす未来があるはずなのだ。

そう遠くない未来のはずのその姿を脳裏に思い浮かべ、待ち望むことだけが、今のナタリアにとって唯一の支えだった。

















                        
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