I love you







お前の言動が人を傷つけてるのに気付かないのか。
同室になった宿の部屋でガイに脈絡もなくそう言われ、ルークは困惑と苛立ちに眉を顰めて聞き返す。

「なんだよ、はっきり言えよ」

「分からないのかよ?さっきお前がみんなの前で言ったことだよ」

そう原因になった言動を、愚かな子供の行いに嘆く様な声音で明かされても、ルークには相変わらずガイが何を責めているのか分からなかった。
ガイにはルークのそんな様子すら侮蔑の理由になるようで、成長してないからだとまた嘆息と共に呟かれる。
その度に沸きだす不安に早くになる心臓と、重い痛みに苛まれるその奥を庇うように、ルークは強く目を閉じて胸を手で押さえた。

ノエルのアルビオールの整備を手伝った後にふと見上げた月の美しさを話した、それが一体誰かを何故傷つけていたというのだろう。
少し前にアニスにも同じように人を傷つけてると責められ、分からないと答えればやはり同じように呆れられた。 今までも何度もこうしたことがあったが、二人に注意される言動はルークには誰かを傷付けるものだとは思えないものばかりだった。

「ガイもアニスもなんなんだよ! この間から俺が見聞きしたもの飲み食いしたものの感想言うと誰か傷つくとか泣きたいとか俺が成長してないとか・・・・・・ 一体なんでそんなこと言われなきゃならないんだよ!?はっきり言えよ!!」

「ノエルと一緒に見た月がすごく綺麗に見えたって言っただろ? この前はノエルが入れた茶のことを言ってたし、その前はケテルブルクの雪景色だったよな」

「それが何で人を傷付けてる言動になるんだよ!?」

「ノエルと一緒に見た風景やノエルのくれたものが特別みたいに言うと、お前がノエルのこと好きみたいじゃないか。 傍から見てると、まるでお前がノエルに恋をしているように見えちまうぞ?」

「え・・・・・・」

まだガイは誤解されるとか気を遣えとか言っていたが、頭が一杯になっていたルークはそれを聞き逃した。

ノエルといると、見る風景も聞く音も、飲むもの食べるものも全てが素晴らしく感じた。
ノエルの笑顔も、声も言葉もちょっとした仕草も、何もかも見ているだけで感じたことのない甘やかな苦しさと痛みと熱を覚えた。
記憶を思い返しただけでも鮮やかに蘇り、その度に胸の中がふわふわしたものでいっぱいになり、 ノエルに何かを言いたくて、でも自分でも何を言いたいのかもこの気持ちがなんなのかも分からなくて。
苦痛は今までも何度も何種類も感じたことがあるけれど、不快でも嫌でもない甘く暖かな、ずっと感じていたいと思う苦痛なんて初めてだった。
ノエルといる時の感覚、ノエルに向ける自分の気持ち。
家族へのものとも友人や仲間へのものとも違うそれはまるで・・・・・。

「恋・・・・・・うん。恋をしてたんだ、俺・・・・・」

「ル、ルーク?」

「俺、ノエルのこと好きなんだ・・・・・」

そう呟くと同時にルークは一気に頬を紅潮させ、対照的にガイはどんどん顔色を陰らせる。

「俺ってばそんなに分かりやすい言動してたのか・・・・・・? あ、もしかしてノエルにも気付かれてたりするのか!? 俺自分でも気付いてなかったからノエルにも何度も言ってたから・・・・・・ そういえば俺がそんなこと言うとノエル何時も顔赤くして、もしかして無自覚にノエルのこと口説いてたことになるのか!? 何度も何度もノエルのこと・・・・・・うわあああああ!!」

他人への好意を表に出すことに照れを感じてしまう性質のルークは、自分がずっと無自覚に好意をあからさまにしていたことに気付くと、 遅れて纏めて湧きだした羞恥にますます赤面しながら悩みだす。

「ノ、ノエル、どう思っただろう・・・・・・どうしよう、どうすれば・・・・・・」

「大丈夫ですわルーク。 何度かそれとなくノエルの気持ちを確かめてみましたが、嫌がってはいませんでしたし、 ルークに自覚がないのもノエルは分かってくれていましたもの」

「ナタリア!?」

何時の間に来たのかガイの背後に立っていたナタリアは、何やらガイには黒く、ルークには柔らかく微笑みかけて助言する。

「そ、そっか。でもノエルに、俺がノエルをどう思ってるのか気付かれてるよな・・・・・・。 ナタリア、確か今日はノエルと同室だったよな?」

「ええ。わたくしはしばらくガイに用がありますから、どうぞゆっくりノエルと話してきて下さいませ」

「ルー・・・・・・」

「ありがとうナタリア。俺、ちゃんとノエルに告白してくる!」

「ルーク!そうじゃなくてだな、俺はティアを・・・・・・ひぃっ!!」

そう言い残して飛び出すように部屋を出て行ったルークに追い縋ろうとしたガイは、 背後から自分を絡め取るように放たれた見えない黒いナニカに足を竦ませ、おそるおそる振り返る。
ナタリアは未だ微笑んだままだが、眼は笑っていない。笑顔なのに怒り顔より怖い。

「馬に蹴られますわよ、ガイ」

あなたがずっと誰をどれだけ傷つけてきたのか、ゆっくり教えてさしあげますわ。












夏目漱石はI love youをあなたといると月が綺麗ですねと訳したとか。
ルークは照れ屋ですが、イオンに対して気遣う言葉をかけながらそれを指摘されると慌てていたので、 無自覚に好意的な言動をして好意を指摘されてから照れだしたりしそうな気がします。
そしてガイやアニスは、ルークが無自覚でも他の女性に好意的な態度をとることを責めそうな気が……。
特にシェリダンの発言のせいで、ガイの中でノエルはかなり優先順位が低いように見えるので。




                        
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