ティアはタルタロスの一室で、和平の使者アスラン・フリングスとイオン、アニスに囲まれ、ファブレ公爵家襲撃の動機について厳しい追及をされていた。
ティアの身体は縄できつく拘束され、椅子の座り心地も悪く、三人の態度は気遣いなど欠片もない無神経なものばかりだった。

ルークは丁寧に旅の疲れを労られ最も上等な部屋へと案内され、今はゆっくり休んでいるというのに、 どうして自分はこんな酷い扱いを受けるのかティアには分からなかった。
ルークを自分と同等だと、いや無知でわがままで、態度の横柄なルークは自分よりも下だとすら思っていたティアには、 ルークには穏やかで優しく気遣いを見せたのに、自分には別人のように冷たく無神経なアスランの対応の差は、理不尽な差別にしか受け取れなかった。

“貴族ってみんなルークやフリングス将軍のように無神経で傲慢なのかしら、 きっとこの人もルークのように、甘やかされて世間を知らずに育ったから、人の気持ちが分からないんだわ! イオン様も、最初は優しかったのにどうして私を庇っても下さらないの、 いえきっとルークやフリングス将軍がイオン様に何か吹き込んだから誤解されているんだわ・・・・・・”

ルークからファブレ公爵家襲撃と、旅の間のティアの行動を聞いたアスランが、 ティアを犯罪者と位置付けて、普段他人に見せる優しさや気遣いを捨てたことも、 ルークを被害者と位置付けて、普段以上に心身の疲労を労り気遣っているということも、 ティアの加害者と自覚しているとは思えない態度の横柄さに呆れてますますティアへの態度が冷たくなっていることも気付かず。

軍服を着て、ダアトの軍人だと示しながらキムラスカの公爵家を襲撃するという、 ティア個人の犯罪のみならずダアトとキムラスカの国際問題になりかねない傲慢な愚行に、 そして導師たる自分にそれを謝ろうとも話そうともしなかったことにイオンが怒っていることも気付かず。

襲撃の時から、いやそれ以前からずっと、自分の行動を省みることも、他人が自分の行動をどう見ているのか気にかけることもないままだった。







無知とわがままと甘やかしの末路







ティアは当初はアスランの尋問にも、ルークに理由を聞かれた時のように「あなたに話しても仕方ないし、理解できないと思います」としか言わなかったが、 イオンにまで厳しい顔で追及され、渋々理由を話し始めた。
ヴァンがキムラスカのバチカルでファブレ公爵子息に剣を教えていると知り、 ダアトでは警備が厳重でヴァンに近付けないが、其処ならきっとヴァンを討てると考えてファブレ公爵家を襲撃したのだと。
だからルークを巻き込むつもりはなかった、ティアがそう続ける前に矛盾した言い訳はアスランに否定される。

「・・・・・・つまりあなたがルーク様やファブレ公爵家の方々を巻き込んだのは偶然でも事故でも、不測の事態でもなく、事前に分かっていたものだったのですね」

「何を言うんですか!私はルークも公爵家の人達も、巻き込むつもりはありませんでした!」

つい先ほど相反した理由を述べながら何を言っているのかと、アスランはひとりと話しているのに複数と話している様な奇妙な錯覚を覚える。
嘘にしては下手過ぎるし、本気で言っているにしては短期間で言うことが変わり過ぎている。
イオンは聞き間違えたのかとマルクト兵が取っている供述記録を覗き込んで確認したが、矛盾を再確認して怒りと心労が増しただけだった。

「あなた自身が言ったでしょう。 “ファブレ公爵子息に剣を教えている”ヴァン謡将に近付いて討つつもりだった、と。 そして実際に、ヴァン揺将が公爵家の中庭で“ルーク様に剣を教えている”時に襲撃したのでしょう。 ・・・・・・“誰かに剣を教えている”時に近付いて戦闘をすれば、当然近くで“剣を教わっている人間”も巻き込むことになります。 あなたが最初からヴァン謡将が“ルーク様に剣を教えている”時にに近付いて襲撃するつもりだったというなら、 それはヴァン謡将の近くで“剣を教わっているルーク様”を巻き込むつもりがあった、と言っているのと同じです。 殺すつもりだったのはヴァン揺将だけだとしても、その戦いにルーク様たちを巻き込むつもり、巻き込んでも構わないというつもりは最初からあった、と。 そして屋敷がキムラスカのファブレ公爵家、国際問題になりダアトやイオン様を巻き込む場所なのも最初から知っていたのですね。 そこまでの他人への危険を承知の上で、あえて他の場所ではなくファブレ公爵家を選んで襲撃した、と」

「ですから他の場所では、ダアトでは教団本部があるから警備が厳重過ぎて」

ティアはダアトでは襲えない理由を繰りかえし、ファブレ家で襲うしかなかったから選択肢などなかった、 巻き込みたくて巻き込んだ訳ではないと主張しようとするが、それを信じる者もティアの話を理解できる者もいなかった。

「バチカルにはキムラスカの王城がありますし、ファブレ公爵家も警備が厳重だったはずですが。 しかもファブレ公爵家はキムラスカの王城の近くに位置するのですよ。 確かにあなたが何を言っているのか私には理解できませんね。 警備が厳重なダアトでは襲えない、だから警備が厳重なバチカルのファブレ公爵家で襲った、と?」

「僕にも、あなたが何を言っているのか訳が分かりません。 ルークのお母様はインゴベルト陛下の妹君、ルークはインゴベルト陛下の甥ですよ? 第三王位継承者にしてナタリア王女の婚約者で、王家の証の色を持つルークは、次の国王になる可能性も高い。 教団本部のあるダアトでは警備が厳重過ぎて、妹といえどもヴァンに近付くことができないが、 王城があるバチカルの王城に近く国王の親戚が住むファブレ公爵家の厳重な警備の中、 王女の婚約者で次期国王の可能性が高い公爵子息に剣を教えている時なら話は別? あなたは一体何を言っているのですか!?」

「イオン様、お気を確かに!」

頭を抱えて椅子からずり落ちそうになったイオンを、側に立つアニスが慌てて支える。

「大丈夫です・・・・・・あまりに荒唐無稽な言い分に目眩がしただけですから・・・・・・」

イオンは気を落ちつけようと数回深呼吸し、なんとか体勢を立て直すが、再びティアの口から飛び出した理解できない言い分に再び気が遠くなる。

「警備されていても譜歌で眠らせれば侵入は容易でしたし、近くに人がいたとしても巻き込むことはないから問題はありません。 私はファブレ公爵家の人々にもルークにも、誰にも危害を加えるつもりはありませんでしたから、ちゃんと譜歌をかけて巻き込まないように眠らせました」

胸を張って言い放ったティアの言葉は、眠らせる譜歌を攻撃と認識しているアスランたちには信用も理解もされず、 ティアが認識している一人前の軍人としての自分と、他人が認識しているティアの差も開く一方だった。

「驚きましたね・・・・・・。 若いとはいえ軍人、第七音譜術士セブンスフォニマー音律士クルーナーと、 何重にも眠らせる術の危険性を把握していなければならない立場だというのに、攻撃して危害を加えた自覚を持たないとは。 どんな環境にいれば、音律士が眠らせる譜歌の危険も知らずに済むのでしょう。 イオン様、タトリン奏長。ダアトでは音律士に“眠らせる譜歌は無害”“敵以外の人間にかけても問題がない”と教えているのですか?」

もしやこれがダアトの“常識”なのだろうかと疑われ、イオンはダアトや他の音律士たちまで一緒にされまいと必死に否定する。

「いいえ!マルクトやキムラスカと同じようにちゃんと教えているはずです!! 一体何処でそんな非常識を覚えたのかも、どうして音律士なのに譜歌の知識を習得していないのかも僕には見当もつきません。 どうして“誰にも危害を加えるつもりはないからちゃんと巻き込まないように攻撃して危害を加えた”などと、 また矛盾した言い分を・・・・・・もう何が何だかまったく理解できません・・・・・・」

教団本部があるダアトでは警備が厳重でヴァンに近付けないので、王城があるバチカルの警備が厳重な公爵家を選び、 誰にも危害を加えるつもりはないので危険な眠りの譜歌をかけて危害を加え、 誰も巻き込むつもりはないので標的のすぐ側に人がいる時に襲いかかって巻き込んで、 自分のせいで連れ出してしまったので必ず家に送り帰そうと前衛で戦わせて詠唱中は護らせる。

こんな矛盾に満ちた言動は確かにルークに話しても理解できなかっただろう、 というよりこれを理解できる人間など存在するまい。

ティアの言い訳はすればするほどティアの意図や認識とは反対に、他人に無知と非常識を曝け出す結果にしかならず、 そうした態度はティアの反省をしない厚顔無恥さと、それを許してきた周囲とティア自身の甘やかしを連想させた。

「眠らせる譜歌が危険なのも民間人にかけたら問題なのも、音律士じゃないあたしだって知ってますよ! 譜術だって薬だって、眠りの効果を持つ力や道具を扱う際には、その危険性も同時に学ばないといけないのに・・・・・・。 何も知らずに音律士になれるなんて、やっぱりあの噂・・・・・・」

「噂、とは?」

アスランに問われたアニスはダアトの醜聞とも言える噂を他国人に話すのを躊躇って口籠るが、 ダアトでは譜歌について非常識な教育をしていると思われたり、音律士は譜歌に無知でもなれると思われるよりはマシです、とイオンに促されて話し始める。

「その・・・・・・ティア・グランツって神託の盾では有名な問題児だったんですよ。 一般常識も、職務上必要な知識も知らず知ろうともしない無知、それを恥じることもない厚顔無恥。 勝手な行動で他人に迷惑かけても反省もしない傲慢。 なのに何の処罰も受けずに音律士に、響長になれるなんて、有力者の縁故か何かで特別に甘やかされてるんじゃないのかとか、色々噂になってたんです」

「失礼なこと言わないで!私はちゃんと知識を得ようと懸命に努力をしてきたし、経験だって積んできたわ。 音律士になれたのも響長になれたのも、その努力が実を結んだからよ。 兄や祖父が有力者でも私はその縁に甘えずに、いつも自分を厳しく律してきたのに、有力者の縁者というだけで贔屓扱いしないで! そんなのなれなかった人の妬みに決まってるわ!」

ダアトにいた頃、ティアを無知だ、わがままだ、そのせいで迷惑を受けたと不当に誹謗中傷をされてきた ──ティアはそうとっていた──ことを思い出し、彼らとアニスが重なったティアは睨みつけながら自己弁護するが、 こんなにも譜歌に無知なのにどうして音律士になれたのか不審だったアスランは噂に納得し、 アニスはティアの主張する努力や自制と、現実にティアがとった行動との違いにますます疑わしい気持が沸いてくる。

「現に音律士なのに、それも眠らせる譜歌を使うくせに、その危険性も知らなかったじゃないですか。 ちゃんと知識や経験を積んでたならどうして必要な知識を知らなくて、 自分を厳しく律してきたならどうして今まで自分の無知に気付かないでいられたんですか? そういう言い方されると、ダアトでは譜歌の危険性も教えてないし、知らなくても音律士や響長なれるって思われて困るですけどぉ〜」

軍人が武器の危険性を理解せずに振るうことがどれほど危ういのか、どれほど他人を危険に晒すのか、ティアは考えもせずに譜歌を使っていたのだろうか。
危険に晒されるのは同僚や、護るべき民間人かもしれないのに、民間人を護るどころか傷付けることすら意に介さなかったのだろうか。

民間人に使って傷付けた後にすら自覚も羞恥も微塵もない振舞いが、ティアの自身への甘さを露わにしているこの状況で、 自分を厳しく律してきたなどとどれだけ言葉だけで飾っても誰にも何の感銘も与えなかった。
自分自身のありもしない厳しさに酔っているようなティア以外は。

「眠らせる譜歌が危険だなんて、あなた何言ってるのよ? 睡眠は誰もが日常でしていることなのに、どんな危険があるというの、無害に決まっているじゃない。 あの譜歌は私の先祖から伝わる由緒ある、神聖で清らかな譜歌なのよ、そんな凶器扱いは侮辱だわ!」

「相手の了承もなく無理矢理に眠らせることをただ眠らせているだけのように言うなんて、ティアさんこそ何言ってるんですか? 専門外の私が知ってるだけでも、転倒、溺れる、落馬、交通事故、持ち物の落下や危険物への追突、 治療の遅延による怪我や病気の悪化や死亡・・・・・・沢山の危険がありますよ」

アニスは溜息を吐きながら指折り数えて幾つも危険を挙げるが、眠らせる譜歌とは無関係なものばかりだと思ったティアは、 やはりアニスも彼らと同じように、故なき中傷で自分をいじめているのだ、 無神経で態度の横柄なルークといい、ルークには贔屓して丁寧なのに自分には冷たいフリングス将軍といい、 どうして自分が出会うのはこんなに傲慢な人間ばかりなのだろうと運のない自分を哀れむ。

「どれも譜歌とは何の関係もないわ! 眠らせるだけでそんな大事になる訳がないのに、どうしてそんなすぐに分かる嘘ばかりつくのよ!」

「すべて眠らせる譜歌が原因で起きる恐れのある大事ばかりだというのに、本当に何も知らないのですね・・・・・・」

実際に睡眠効果のある譜術や睡眠薬を悪用した犯罪でそうした被害を見てきたアスランにも、 ティアの無知な行動がどんな被害を引き起こしかねなかったかは良く分かり、もう何回目か分からない呆れを漏らす。

「ティアさん、知ってますか? 睡眠薬を飲んだ後は、危険物を扱ったり危険行為をしたら危ないんですよ。 例えば睡眠薬を飲んだ後に車を運転すると、居眠り運転になってしまうかもしれないとか」

「そんなこと知ってるわ、睡眠薬を飲んだ後に運転をしないなんて常識じゃない。 今は譜歌の話をしているのに、訳のわからないことを言って誤魔化さないで!」

「眠らせたり痺れさせる譜歌を受けたら、同じ大事になりかねないんですよ」

その言葉に、ようやくティアの癇癪じみた喚きが止まる。
頑なに二人の言うことを良く考えもせずに否定して、自分は悪くないと信じていたティアの頭が、 遅まきながら自分の行動と二人の言うことを結びつけて考え始め、自分自身への盲信が揺らぎ始める。

「運転中に譜歌を受けて眠ってしまって、居眠り運転のように車の制御ができなくなってしまったら? ベランダとか高所にいる時に譜歌を受けて手の力が抜けて、持っているものを人がいる所に落としてしまったら? 睡眠薬を飲んだ後に危険物を扱ったり危険行為をした時と同じようになるでしょう?」

「入浴中に譜歌を受ければ溺れる恐れがありますし、ガラスの戸や窓は倒れるように追突すれば衝撃で割れることもあります。 負傷しても家中の人間が眠っていては治療できませんし、病人がいて発作などを起こした場合もそうです。 そのために悪化したり、亡くなる可能性もありますね。 そもそも急激な眠気や痺れによって力を失う、倒れるというのはそれだけでも非常に危険なのですよ。 寝台に横たわって眠る時とは違い立っている所を倒れるのですから身体を、最悪頭などの急所を打つ恐れがありますし、 倒れた所に危険物があれば大怪我や大事故が起こる恐れがあります」

「そ、んな・・・・・・そんなの大袈裟に言い過ぎです、ただ眠っただけでそんな、こと・・・・・・」

今まで譜歌によって他人を眠らせることを、立っている人間や割れ物を持っている人間を眠らせることでさえも、 普通に寝台に入り横になって眠ることと同じように考えていたティアは、自分の認識と、アニスやアスランの認識の差に愕然とする。 それでも自分の認識の過ちを、自分の無知と傲慢と、民間人への危害を認められずに苦し紛れに反論しようとしたが、すぐにアスランに一蹴される。

「居眠りにも居眠り運転で事故を起した、入浴で溺れかけた、乗馬中に落馬した、倒れて怪我をした、など色々な危険があるように、 “強制的に眠らせる”譜歌にも同じ危険があるのは自明の理でしょう。 それが大袈裟なら、先程あなたが言った“睡眠薬を飲んだ後に運転をしない”というのも常識も大袈裟で、 睡眠薬を飲んだ後に運転をして、その最中に居眠りをしても問題がないとでも? 立つ、歩く、割れ物や重い物を運ぶ、そんな日常の行為が、 陶器やガラス製の食器や花瓶、戸や窓など家の中にもある物が、眠気や痺れに襲われれば危険物や危険行為になるのです」

ティアは歩いていた執事の男性、食器を運んでいたメイドの少女、彼らが自分の譜歌にかかった時にどうなったかを思い出す。
頭も庇えずに倒れた執事、倒れる時に食器を落して破片のすぐ側に倒れていたメイド、病弱だという噂の公爵夫人、他にも沢山いただろう人たち。
自分が巻き込んだつもりも危害を加えたつもりもなく譜歌にかけた多くの人々を、初めてティアは気にかけた。

そして倒れる彼らの中を、立ち止まることも動揺に歌声を揺らがせることもなく歩いていた過去の自分を思い出して背筋に寒気を覚え、 こんなにも周囲が自分に冷たい理由、自分とルークへの周囲の態度に差がある理由をようやく察した。

「実際に眠らせる譜術や薬物を悪用した犯罪には、眠って倒れた被害者が怪我をするなどの被害も起きています。 目的が金を奪うことにしろ暗殺にしろ別にあり、眠らせるのが殺すためではなく動けないようにするためだったとしても、怪我への危惧は大袈裟なことではありません。 睡眠や痺れの効果を持つ譜歌は、悪用すれば刃物や銃と同じように人を傷付け、死なせることも可能な“凶器”になります。 しかも効果範囲が広いために無関係な人間まで巻き込む恐れがあり、扱いが非常に難しい、ね。 だからこそ譜歌を扱うものは、譜歌について良く知っていなくてはならないはずなのに、これで音律士を名乗るとは・・・・・・」

「音律士なら・・・・・・“譜歌を操る者”なら基本的な、知っておかなければならない知識のはずですよ? こんなことも知らずに音律士や響長になれたのが、努力と実力を正当に評価されたからだなんて到底思えません。 ちゃんと音律士としての知識や経験を積んでいたなら、こんなにも無知でいられるはずも、 危害を加えるつもりのない相手に譜歌で危害を加えたりするはずもないのに、 ティアさんが得てきた知識って、積んでいた経験って、一体何だったんですか?」

ティアがいくら口で努力や実力を主張しても、心の底からそう思い込んでいるとしても、 現実のティアの言動から滲みでるものは、無知と、わがままと、そうあることを許されるほどの周囲とティア自身の甘やかしだけだった。


音律士クルーナー
神託の盾騎士団で譜歌を操る者を指すその称号を、ティアはずっと誇らしく思っていた。
自分が認められたのだと、自分はその称号を名乗るに相応しい人間だと、そう思って名乗ってきた。

けれどその誇りは幻想で、譜歌の知識もなかった自分がなれたのは恐らくは兄と祖父の縁故による贔屓で、 自分には音律士を名乗るに足る知識も経験も、そして努力も自覚も何も足りなくて、 無知でいられるほどに、己が無知だと気付かないほどに甘やかされていて。

現実のティアが成り果てたのは、無知で、わがままで、それを恥じることもなく、民間人を攻撃して気にかけもしなかった愚かで冷血な犯罪者。

ティアは目を固く閉じ、手で耳を塞ぎ、それ以上の会話を拒んだ。

何も教えてくれなかった周囲を恨み、何も叱ってくれずに甘やかしてきた兄と祖父を恨み、何も教えても叱ってももらえなかった自分自身を哀れんで現実を拒み続け、 呆れたアスランたちが出て行っても、キムラスカに到着して投獄されても、ただひたすら全てから逃避して自分を甘やかし続けるだけだった。












ティアの公爵家襲撃の理由はシナリオブック小説「序奏」より。

アニメではラムダスの倒れ方が頭や胸を打ったように見えましたし、メイドが食器と一緒に倒れて割れた破片の側に倒れていますし、 居眠り、貧血などの意識喪失で起こる恐れのある事態は、あの時ファブレ公爵家で、ティアの譜歌によって起きていた恐れもあったと思います。
車もアニメで漆黒の翼が使っているので、貴族や裕福な家なら持っているのではないかと。





                        
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