ティアは良くルークの無知に呆れ、馬鹿にし、“彼女の常識”をお説教のように言う。

「こんなことも分からないの?・・・・・・まったく、本当に何も知らないお坊ちゃんなのね」

けれどルークには、ティアの“常識”も、どういうつもりでお説教しているのかも、何も分からなかった。
一度失った信用は簡単には取り戻せないのだから。







非常識な襲撃犯のお説教







「口うるさく感じるでしょうけど、私はあなたを心配して近くで見守るつもりでいってるのよ?それにあなたが世間知らずだから苛立ちを隠せなくて、ついお説教してしまうのよ」

ルークには、ティアが分からなかった。
ティアのいう常識が本当に正しいのか、お説教をするのが本当に自分を心配して見守ってのことなのか、何も信用できなかった。

旅の間に出会った人々は多くが姉が弟を叱っているのだと勘違いをして微笑ましいものをみるような目で見ていた。
何も知らない他人から見れば、彼女とルークの関係も出会った事件も知らなかったなら、そう見えるのかもしれない。

けれど、ティアはルークの姉でも母親でも、家族でも保護者でもない。
ナタリアのように家族のような親族でもなく、ラムダスのように良く知っている人間でもなく、親がつけた教師でもないから親が信用しているという下地もない。
初対面の何も知らない、赤の他人、そして“非常識な襲撃犯”だ。


ルークには、ティアの“常識”が分からなかった。
ルークからみれば、ティアの行動は何も知らないような非常識なものばかりだ。

目的はヴァンを襲うことだけだったと言い張るけれど、それなら必要はないだろうファブレ公爵家で襲撃したこと。
ダアトの軍人を名乗るけれど、ダアトとキムラスカの国際問題になりかねない貴族の屋敷への襲撃事件を起こしたこと。
襲撃や侵入の恐れが幾つもあり厳重な警備が必要な貴族の屋敷から、その警備を眠らせて軍事力を奪ったこと。
ヴァンだけが目的なら無関係な民間人のはずのルークや屋敷の人々を巻き添えにし、危険な譜歌までもかけたこと。

それでいて危害を加えるつもりはなく、巻き込むつもりもなく、警備が厳重なダアトでは襲えなかったからキムラスカで襲うことにしたと彼女の言うことは行動と解離している。

何もかもルークが今まで他人から、家族のような従姉や親が信頼してつけた家庭教師、屋敷の執事や父の部下の軍人、良く知っている信頼できる人達から教えられた“常識”とは異なっている。

ルークには、ティアに“何も知らない”と言われてもルークが無知なために一般常識を知らないのか、それとも彼女が常識と思い込んでいるものが知らなくても良い非常識だから知らないのか分からなかった。
だからティアに“あなたは何も知らない、私のいうことは覚えるべき常識なのよ”と言われても、非常識な行動ばかりをとってきた彼女が教える常識を信用などできない。
例え彼女自身は常識だと思ってはいても、今までのことと同じように無知なために非常識をそう勘違いしているかもしれない。

だから、ティアがルークにお説教する“常識”を到底信用できなかった。


ルークには、ティアの“性格”が分からなかった。
ティアはルークの屋敷を襲撃し、屋敷の人々に危険な譜歌をかけ、屋敷を厳重に警備する白光騎士団を眠らせ、ルークがヴァンのすぐ側にいても襲撃した。

二人が出会ったきっかけのあの事件で、ティアは既にルークに何重にも危害を加えて傷付けている。
それもヴァンが目的ならばそれは全て必要がなかったはずだから、ルークは必要もなく危害を加えられたということになる。
ティアが本当にルークを、見も知らない他人を心配したり他人のためを思ったりする人間ならばそもそもあんな襲撃は起こさないだろうし、起こしてしまった以上ティアはルークを、見も知らない他人を心配したり他人のためを思ったりはしない人間なのだという証明になっている。
襲撃によって警備を奪うことも、危険な譜歌をかけることも、必要もなくてもできる冷血女なのだと。

だから、ティアがルークを“心配して見守っている”のも“ルークのためを思って言っている”のも到底信用できなかった。


初対面で自分に必要もなく何重にも危害を加えた他人が、“自分を心配して見守っている、自分のためを思っている”のを信用できる人間が、果たしているのだろうか。
むしろそんなつもりでお説教をされたら急に態度を変えるなんて何か魂胆があるのではないかと疑うか、自分に危害を加えたことは罪悪感もなく忘れ去ってしまったのかと感じて余計に反感を持つかのどちらかだ。

少なくともルークが周りの人々から教わった常識ではそのはずだ。
そんなことは全く考慮せず信用されるのが当然のように、まるで襲撃犯の己がルークの姉か母親になったかのように勘違いをしているのなら、やはりルークの周りの常識は彼女には通用せず、危害を加えた相手の信用は簡単には得られないことも、嫌悪や不信感を持たれるということも、彼女は何も知らないのだろう。

ルークには、ティアのお説教が“常識”なのかも、それが“ルークを心配して見守っている”からなのかも、どちらも信用できない。
そんな襲撃犯のいう魂胆も正しいかも怪しいお説教を信用して受け入れたら、間違っていれば非常識を常識だと思い込んでしまうことになるし、何か魂胆があってわざと嘘を教えているなら騙されればろくな結果にはならないだろう。


だからルークは、ティアの言うことなど聞かない。
非常識な襲撃犯のお説教になど、常識的に考えて信憑性はないのだから。

一度失った信用は、簡単には取り戻せないのだから。













ナタリアはまともな捏造ナタリア設定です。




                        
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