※ナタリアは本物のルークはここにいますのよ!とか記憶喪失者に強制勉強とかしない捏造ナタリアです。







7歳と17歳の比較







ワイヨン鏡窟の奥に辿りつくと、そこは研究施設のようになっており巨大な音機関が設置されていた。

「ここは・・・・・・?」

「フォミクリーの研究施設ですね。廃棄されて久しいようですが・・・・・・」

ナタリアは自分では到底扱えそうにない専門的な機械をみてジェイドに頼もうかと考えたが、それより早くアッシュが真ん中の機械に近付き操作する。

「演算機はまだ生きてるな」

「大したものですね、ルークでは扱えなかったでしょう」

そうルークとアッシュを比較して誉めるように言ったジェイドに、アッシュも満更でもなさそうな顔になった。
けれどナタリアは首を捻り、ジト目でジェイドを見ながらアッシュに問いかける。

「アッシュ、あなた何処でこんなことを覚えましたの?」

「ああ、ダアトで同じ六神将のディストから教わった。あそこでは音機関を扱うこともあったからな」

「つまり、ファブレ公爵家で学んだわけではありませんのね?」

「?、そう言ってるだろう?」

「・・・・・・でしたら、ルークと比較するのは無意味ではなくて?」

アッシュはその言葉をナタリアの意図とは逆にとったようで優越感に満ちた顔になり鼻で笑うと、まるで其処にルークがいるかのように侮蔑を露わに罵った。

「はっ、あの屑は俺より劣化してやがるからな、出来損ないに俺と同じことなんかできないだろうよ!」

「そういう意味ではありませんわ」

あっさり否定されて、アッシュの浮き上がった気分は急降下する。
恨みがましくナタリアを睨みかけて、ナタリアの目に今まで見たことが無い色が浮かんでいるのに気付いてたじろいだ。
それは例えるなら、子供の中に入ってガキ大将を気取る大人を生温かく見る様な、いやそれを何倍も酷くしたような・・・・・・そんな視線だった。

「このような専門的な音機関の扱い方なんて、ルークのような王族は・・・・・・というより必要や興味がない人間は学びませんわ。わたくしだってこれを扱うことなどできませんもの。アッシュだって、あのままファブレ公爵家で「ルーク」として育っていたなら学ぶこともなくこれを扱うことはできなかったでしょう。逆に、ルークの方が六神将として音機関の扱いを学んでいたなら、扱えるようになってたかもしれませんわね。あなたではこれを扱えず、ルークが扱えるように」

「俺があのレプリカに劣るようになっていたってのか!?あんな出来損ないに!」

自分ではできないことを劣化レプリカができるようになっていたかもしれないなんて仮定でも認められずに、息荒く唾を飛ばして詰め寄るアッシュから身体を引くと、ナタリアは子供に言い聞かせる様な口調で話を続ける。

「劣るとか出来損ないとか、どうしてそんな風に考えるのです?専門的な音機関の扱い方なんて誰もが知っていて当たり前の知識ではありませんのよ?ガイが何時も夢中になっている音機関のことだって、音機関にさほど興味がなく学ぶことのなかったわたくしにはわかりません。それはわたくしがガイより出来損ないということになりまして?逆に、わたくしが知っていることの中にガイが知らないこともありましょう。それはガイがわたくしより出来損いだからですの?」

自分の居場所を奪った偽物、劣化レプリカ、そう憎しみからルークを見る目を何時も曇らせていたアッシュだったが、ガイとナタリアに置き換えられて他人同士のことと客観的に考えたことで、やっと自分の考えの理不尽さを認識してきて言葉に詰まる。

「ましてアッシュは17歳、ルークは7歳ですのよ?知識や能力に差があるのは自然なことではありませんか。17歳の兄が専門的な音機関を苦もなく扱うのをみて、大したものですね、7歳の弟では扱えなかったでしょう、と比較しますの?」

考えてみればアッシュ自身の子供の頃も、年上で音機関マニアのガイが容易く扱う音機関がアッシュには扱えそうになかったことなど良くあった。
けれど年齢差と、趣味の差と、何より自分に必要な知識ではなく学ぼうともしなかったことから自然なことだと認識し、別に劣等感など持たなかった。
それなのにアッシュは何時も、幼いころの自分が持たなかった知識を持たない、出来なかったことが出来ないことでルークを自分より劣ると見下してきた。

「ジェイド、確かケテルブルクの知事ネフリー・オズボーン子爵はあなたの妹さんでしたわね。知事としては有能な方ですが、あなたのように音機関や譜術に秀でてはいなかったと聞いています。あなたには扱える専門的な音機関の中に、オズボーン子爵が扱えないものもありましょう?あなたがそれを扱うのをみて、大したものですわ、オズボーン子爵なら扱えなかったでしょう、そう比較されたらあなたはどう感じますの?」

自分と妹の身に置き換えられて、流石にジェイドも分かってきた。
自分とは違い、譜術や音機関には興味も専門的に学ぶこともなかった妹。
兄の自分ができるからといって趣味も環境も違う妹を比較されれば、ジェイドとて不快になっただろう。
けれどジェイドが先程言ったことは、それと同じことなのだ。
ナタリアは眼鏡を直すふりをすることで目を逸らすジェイドを白い目で一瞥すると、アッシュにもう一度問いかける。

「タルタロスでルークが殺人を恐れたことも出来損ないと罵ったそうですが・・・・・・あなたは、もう少し冷静に互いの環境と年齢差を、そして本当に出来て当たり前のことなのかを見つめ直してくださいませ。殺人を恐れるのは軍人であっても珍しくない、人間のごく自然な反応ですのよ?まして自分よりずっと年下の、軍人でもなく実戦の経験もなかった、できないのが自然な子供を比較して蔑んで、自分が優れているからと悦に浸って、恥ずかしくはありませんの?」

アッシュは痛いものを見るようなナタリアの視線に耐えられずに後退る。
従姉弟で、家族同然で、婚約者からこの視線を向けられるのは居た堪れなさすぎた。

今すぐ落盤が起きて自分をここに埋めてくれないだろうか、消え入りそうな恥ずかしさの中、切実にローレライに祈ったのだった。












アッシュはこの時無反応でしたが、タルタロスで殺人を恐れることにすら出来損ない扱いをしたアッシュならこういうことにも比較して出来損ないだと思ってそうに見えたので痛くしてしまいました。 音機関の扱いをディストから学んだというのは捏造設定です。キムラスカが幾ら譜業が発達しているとしても、あんな機械の使い方なんて公爵家では学びそうになかったので、ダアトで習得した知識ではないかと想像しました。



                        
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