ヴァンは苦悩していた。

思えば彼の人生は子供の頃から苦悩続きであった。
ユリアシティでは外郭大地の何も知らない子供といじめられ、神託の盾では早い出世を妬まれていじめられ、舐められまいと髭を生やし威厳のある髪型を繕ってみれば笑われていじめられ、(何故だ!?)極めつけにユリアの預言を覆すために集めた同志たちはどういう訳かひとくせもふたくせもある変り者揃いでいじめられ。

シンクに「ヴァンのパンツは僕の服と一緒に洗わないでね。お風呂も僕が先に入るから」と汚物を見るような目でみられながら、アリエッタが幾ら言っても聞きわけなく連れて入る魔物たちによって大好物のたまご丼を勝手に餌にされながら、勝手に神託の盾の衣装をディスト好みの『美しい』衣装に変えられながら、寝ている間に髪型をディスト好みの『美しい』髪型に変えられながら、数え切れないほどの悩みに苦しみながら、それでもユリアの預言を覆す悲願のために彼らまとめ上げてここまできた。


だがそんな彼ですらかつてないほどに苦悩する前には──


「兄さん!人は変われるのよルークと同じように!もう一度考え直して!」

「どうしてこのシリアスな場面でその衣装なんだティアアアァァァァ!」


キムラスカ王城のメイド服(バチカルのコスプレ衣装店で人気1)を着た、何かが変わり過ぎた愛しい妹の姿だった。







かわいいは正義!







「何怒ってるのよ兄さん、まさかこのメイド服に不満があるとでも言うの?この服の可愛さが分からないなんて、そんな私の兄さんじゃないっ!」

「いやその服は確かに可愛いしお前に良く似合うが・・・・・・ってそうではなくどうしてこの場面でその衣装を選んだのかと私は問うているんだ!」

それよりメイド服の良さが分からないと兄ではないという台詞の方に突っこむべきだが、そこに不満はないのは元々そういう趣味なのだろうか?
なるほど、だからティアはあんなに可愛いもの好きだったんだな育てた師匠の影響か、とルークが一人納得をしている横で、これまた何かが変わり過ぎた年齢詐称が怪しく笑う。

「戦いを前にしてその程度のことに心を煩わせるようではまだまだ未熟ですねぇ。いくら外見を取り繕おうとと所詮は若造と言ったところですか」

そんなジェイドの服はバスロープ、武器はデッキブラシ。
とてもラスボス戦に挑む衣装とは思えないが、本人はこのセットが随分気に入ったらしく因縁深いディストやレプリカネビリムとの戦いの際にもこれを着用していた。
確かにこの服装の異質さに比べれば、ティアのメイド服など大したことはない・・・・・・かもしれない。

「まあ大佐、ヴァン揺将にとってティアは可愛い妹ですのよ?可愛い妹に可愛い衣装が加われば萌えのあまり心乱れるのも無理はありませんわ。ええ、わたくしには良く分かりますとも、萌えとはあらゆるものを圧倒する最強の情熱なのだということを!」

「いや私はティアの服に萌えて動揺している訳ではないのだが・・・・・・というかそんな理解を示されても対処に困るのだが・・・・・・」

そんなナタリアの横では、ねこにんきぐるみを着せられたアッシュが死んだ魚のような目に諦念を浮かべて佇んでいる。
元はアニスの衣装だったのだが、あまりの可愛さにナタリアが高値で買い取りアッシュのサイズに仕立て直したのだ。
プライドの高いかつての弟子がこれを大人しく身につけるまでの経緯と苦悩を思うとうっかり貰い泣きしそうだった。
だがそんなヴァンにかつての主人にして弟分が優しく声をかける。

「そう気を落とすなよヴァンデスデルカ」

「ガイラルディア様!」

そう、彼なら自分の苦悩を分かってくれる。
こんな変人パーティの中にいても(六神将を従えていた時点で人のことは言えないのだが)ガイラルディア様は昔のまま変わっていない──

「その苦悩をお前だけに背負わせたりしない。俺だってティアのメイド服には萌えているし、戦闘の度に戦うメイドさんに萌え萌えなんだ。俺は酷なことを言ってるかもしれない──でも、自分を見つめ直して、気持ちを素直を表す術を知ることも立派な成長なんだぜ?」

キラッと効果音がしそうなほど爽やかに笑うかつての主の台詞に、ヴァンは崩れ落ちて立ち直れそうもなくなった。

あのガイラルディア様がどうしてこんな風に成長?してしまったのだろう・・・・・・ああああファブレ家に潜入させたりせず私が手元でお育てすればこんなことには。

何やら苦悩を深くしているヴァンを見ながら、どっちも可愛いもの好きでメイド萌えか、ガイが先かヴァン師匠が先か、どっちに影響されたんだろう?とヴァンが聞いたら更に苦悩を深くしてハゲそうなことを考えているルークだった。















                        
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