みんなが口々に俺を責める。
みんなが俺が間違っているのだと言う。

でもみんなの、みんなが“常識人”と認めるガイの行動から学んだことなのに、どうして俺を責めるんだろう?







子は親の背中をみて育つ







発端はグランコクマに立ちよった時に、話題になっていたある事件だった。


ひとりの子供が大きな罪を犯した。
しかし子供は罪を犯す気はなく、またその罪を犯してしまうことになるとは想像もできずにとった行動で結果的に罪を犯してしまった。

子供に罪を犯させたのは詐欺師と、子供の義理の父親だった。
詐欺師は子供を利用して、罪を犯させるために近付いて、優しい信用できる大人のふりをして子供を騙し、子供に何も教えず罪を犯させた。
父親は詐欺師の正体も、詐欺師が子供を騙していることも知っていたけれど子供を助けなかった。


宿の部屋で新聞からその事件を知ったティアたちは子供に同情し、口々に詐欺師を、そして子供を助けなかった父親を責めた。

「まあ、どうして教えなかったんですの?教えれば子供は詐欺師から助かって、罪を犯さずに済んだかもしれませんのに」

「本当にどうしてなのかしらね。なんでも詐欺師とは古い友人だったそうだけど、それにしても子供が騙されるのを見捨てるなんて何を考えていたのか理解出来ないわ。罪を犯させようとしていたことまでは知らなかったそうだけど、保護者なら騙されている時点で助けるでしょう。子供が辛い思いをするのは分かってるんだから」

子供に同情したのか悲しそうなナタリアの問いに、ティアも父親への怒りを滲ませた声で答えると、丁度今日の新聞を読んでいたジェイドが続ける。

「詐欺師の目的は子供を殺すことだったと思っていたから止めなかった、なんて供述もしているそうですよ」

「は?子供を殺すことが目的だと思ってたなら尚更止めなきゃならないじゃない、なにその親!」

「つまりその父親は、子供を騙しただけでなく見殺しにしようとしたと言う訳ね。呆れたわ、父親としての責任を全く理解していなかったのね」

「これって父親も悪くないわけないよね?」

「助けなければ子供に危険が及ぶことを知っており、なおかつ助けることが可能な状況にあって子供を助けなかったなら、それはティアの言うとおり、騙されている子供を見捨て、見殺しにしたのと同じですから親も悪くないはずがありませんね。友人だそうですから確信がなかったのかもしれませんが、もしかすると子供が騙されているのかもしれない、危険が及ぶかもしれないと思いつつも見捨てたり協力していたのなら、少なくとも父親は、子供に危険が及んでも構わないという思いがあったのでしょう。父親がはっきり知っていた“騙されている”こと自体が、危険のひとつになりますしね」

ジェイドはアニスに尋ねられて説明はしつつも、こうした事件を聞くのに慣れているのか他人への共感が希薄なためか特に感傷はなさそうだったが、ティア、ガイ、アニス、ナタリアは口々に怒って父親を非難した。
父親は悪い、保護者として最低だ、親の資格などない──まるでそれが“常識”のように意見を揃えて言い合うその中で、ルークだけが親への怒りも子供への同情も見せず、ただ妙なものでもみたかのようにきょとんとしてみんなを見つめていた。

「この記事に載っていますが、見捨てただけではなく詐欺師の協力者として子供を騙すのに協力すらしたそうですね」

記事を読み終えたジェイドが新聞を畳みながら新しい情報を答えると、仲間達の怒りは更に火に油を注がれたように燃え上がる。

「つくづく最低ね。詐欺師も酷いけど、その父親も最低だわ」

「本当ですわ!父親ともあろうものが子供を騙すのに協力するなんて!」

「しかもその父親は、犯行が明るみに出た時に、“悪いのは罪を犯した子供だけだ、自分は何も悪くない”と全ての罪を子供だけに押し付けたとか」

「サイッテー!自分が何したか分かってないの?自分の子供裏切って騙したんだよ?共犯者じゃん!」

「例え罪を犯したのが子供だとしても、子供も悪いとしても、罪を犯させた人間だって同罪だろう。何も知らなかった子供が悪いと言うなら、同じように親も何も知らなかったとしても悪いと自分も子供に罪を犯させる一端を担ったと認めなきゃならない。自分の非を認めずすべて人のせいにするなんて、呆れるしかないな」

「まして親なら、親にそんな仕打ちを受けた子供の気持ちを気遣うべきだわ。自己保身のためにそんな態度をとって、更に子供の気持ちを傷付けるなんて本当に傲慢ね」

「・・・・・・みんな何言ってるんだ?何怒ってるんだ?」

みんなの言ってること俺には全然わかんねぇ、と顔にも声にも困惑だけを浮かべてルークが呟く。
その顔は何処か、親の姿を見失って途方に暮れた子供の顔に似ていた。

「ルーク、あなたはこの父親が酷いと思わないの?」

「んも〜相変わらず人の気持ち分かんないんだから〜変わったんじゃなかったの?」

「まあまあ、ルークにはちょっと難しい話だったかもな」

ひとり同調しなかったルークにティアとアニスが怒りかけるのをガイが宥める。
ルークは一瞬、また馬鹿なこといったら見捨てられるかもしれないと恐怖が過ったが、それでも震える声で問いを続けた。

だってこれを肯定してしまったら、自分が信じていた、彼らをみて学んだ“常識”が覆ってしまう。
自分が信じていた“保護者”が、保護者の資格などない最低な共犯者に成り下がってしまう。

「いや、そうじゃなく・・・父親も悪いとか、子供が可哀相とか、なんでそんなこというんだ?その父親の言うとおり、悪いのは子供だけで、父親は悪くねぇだろ?なんでみんな子供だけじゃなく父親まで責めるんだ」

「父親が悪くない訳ないでしょう!父親は子供を騙したし、見捨てたし、共犯者なのに、それが結果的に子供に罪を犯させることにもなったのに、この親は卑怯にも自分の責任から逃げたのよ!」

「・・・・・・それって悪いことなのか?」

「当たり前だよ、もーこれだから世間知らずのお坊ちゃんは!」

「ルーク、もう少し人の気持ちを推察すると言うことを覚えて下さいませ」

「だって、ガイも同じことやっただろ?」

何時ものようにルークの無知と傲慢を責めていたアニスの声が途切れ、ティアも怒りに釣りあげていた目尻が戻る。
ジェイドは一瞬眼を見開いた後、何かに気付いたように眼を伏せて眼鏡を直した。
そのまま沈黙してしまった三人と違い、ガイは心外だというように、自分は潔白だというように不満げにルークに睨むと「俺はお前の親友だし、何時だって助けてやっていたじゃないか、なんでこんな最低な親と一緒にするんだ!」と怒り、ナタリアも「ガイは立派な保護者ではありませんか、一体どうしたのですルーク」と訝しげに尋ねた。

「みんなガイは俺の父親や兄みたいなもの、俺の保護者だって言うじゃないか。でもヴァン師匠の協力者だった。ヴァン師匠が俺を騙すのを知っていたし、協力したし、騙されている俺を見捨てた。ヴァン師匠の目的はファブレ家への復讐のために俺を殺すことだと思ってたのに、辛い思いすることも分かるのに俺を助けなかった。協力を止めなかった」

ルークが言葉を続けるのに比例するように、ガイの顔はどんどん青ざめて行く。
ガイが悪くないと信じているルークにはその理由も分からず怪訝そうに眉を寄せたままに説明を続けた。

「そして俺はヴァン師匠に騙されて、罪を・・・・・・犯した。ガイは、ヴァン師匠に騙されて、知らなかったけど、俺を殺すためだと思ってたけど、ヴァン師匠とガイが協力して騙された俺が、アクゼリュスを崩落させた。あの時俺もみんなもガイが師匠の同志だなんて知らなかったけど、でもガイ自身は知ってただろ、でもガイは俺だけを責めて、自分が回し者スパイだったことを打ち明けて自分を責めることはしなかっただろ。俺のことはユリアシティに置いてったけど、ガイは残らずにみんなについていったからガイは自分は頭を冷やしたり罰を受ける必要もないと思ったんだろ?みんなだってベルケンドでガイがヴァン師匠の同志だったと分かった時、これから回し者になるかは少し疑ったけど・・・・・・ヴァン師匠の共犯者だったことや俺やナタリアやアッシュをずっと騙してて見捨てたことや、騙した俺がアクゼリュス崩落に使われたことは責めなかっただろ。俺にはヴァン師匠に騙されたことや考えなしに行動したことや相談しなかったことを責めたのに、ガイには全然そうしなかったし、全部明らかになった今でもガイのこと常識人だ、俺の父親みたいだって誉めてる。もしもガイも悪かったら自分の非を認めず全て人のせいにしようとしたことになっちまうけど、俺にしたみたいに見下したりしなかったもんな。髪が長かった頃の俺のことは、今でも俺だけが悪かったみたいに責めているのに。だから、ガイと俺とは違うんだろう?ガイが騙される俺を見捨てたことや、俺を騙すのに協力していたことも分かっても、悪いのが俺だけなのは変わらないんだろ?」

「そ、それは・・・・・・」

悪いのはこの子供だけで父親は悪くない、悪いのは俺だけでガイは悪くないように。
なのに、ルークだけを責めてガイを責めなかったみんながどうして子供に同情して父親を責めるのかと理解出来ないと困惑するルークに、誰も答えられなかった。

ルークは答えられずにに沈黙してしまったティアたちから真っ青になっているガイへの視線を移し、再び問いかける。

「なあガイ、この父親は悪くないよな?父親が子供を騙しても、騙されるのに協力しても、見捨てても悪くないし、父親がそういうことしてても結果的に共犯になるようなことしても悪いのは子供だけだよな?だって子供だけじゃなく父親も悪いんだとしたらガイも悪いことになっちまうもんな」

親から教わった“常識”を信じて疑わない幼子のような眼で見つめながら問われ、ガイは否定も肯定もできずに言葉を失ったままだった。
ルークの言葉を否定すれば過去の自分の罪からの逃避を肯定することになり、肯定すれば再び自分の否を認めずすべて人の、騙した子供のせいにして逃避する卑怯者の保護者になる。

ガイはどちらも決意できず逃げるようにルークから眼を逸らしたが、ルークは更にそれを追って覗き込む。
彼らのいう常識人の“常識”と罪の有無の真偽を求めて問いを繰り返す。


「でもまさかそんなはずがないよな。ケセドニアで俺がアクゼリュス崩落で非難されるのは俺一人だと言った時に黙ってたお前が、実は非難されるべきなのに知らんぷりしてたなんて。お前が傲慢で、卑怯で、責任を全く理解していない最低な“父親”だなんて。俺だけが悪い、俺は馬鹿かもしれないと責めて置いて行ったお前が、実は悪くて馬鹿かもしれなくて責められて置いて行かれるべきだったなんてそんな訳ないよな?なあガイ?父親は、お前は、悪くないよな?」












前回とは逆に、ルークがガイから“親”というものを学んでしまったら。

父親と子供が同じ人間を信じて、騙されて、利用されて、罪を犯しても悪いのは子供だけ。
父親が罪を犯させる一端を担っても、悪いのは子供だけ。
子供を騙し、子供が騙されるのに協力し、子供が騙されているのを見捨て、騙された結果は他人事。

ガイを父親でルークを子供に擬したなら、そんな親子にしかみえません。




                        
戻る