まるで魔女の呪歌のような
何時ものように庭師のペールから装飾用の花を受け取り、それを飾るために奥様の部屋に向かって廊下を歩いていると、突然後ろからがしゃん、と音がした。
なんだろうと振り向くと、仲の良いメイドのイリアが床に倒れていて、彼女が持っていたのだろうトレイや割れたカップが転がっていた。
貧血でも起こしたのだろうかと慌てて彼女の方へ行こうとする前に、私と同じように駆け寄ろうとしていたメイドのアンナが頭から倒れる。
ごん!
離れていても聞こえるほど大きな音がして、彼女はそのまま、動かなくなった。
「アンナ!」
アンナを助け起こすと、真っ赤に染まった頭部から流れた真っ赤な血が、私のメイド服までみるみる染めて赤くしていった。
ハンカチを傷口に当てながら、泣きそうになりながら必死に叫ぶ。
「誰か、誰かお医者様を!!だれ・・・・・・か・・・・・・」
がつん、がしゃん!
ごん!がん!
助けを求めようとした白光騎士たちが、悲鳴を聞いて入ってきたラムダス様が、次々に倒れて行く。
誰もいないのに、誰も彼らに触れてなどいないのに。
まるで見えない何かがみんなを倒しているかのように倒れて行く。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
異様な光景に悲鳴すらあげられず身体ががたがたと震えて止まらない。
逃げないと。
ここから逃げて奥様やルーク様に知らせないと。
そう思って上手く動かない足を必死に動かして逃げようとした私の耳に、場違いな美しい歌声が聞こえた瞬間、額への衝撃と共に意識が暗転した。
ああ奥様、ルーク様逃げて下さい、何かが、見えない化け物が。まるで魔女の呪歌のような、声、が。
ユリアの思いの籠った歌でも、巻き添えにされた“民間人”にとっては恐ろしい魔の歌。
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