「俺はガイを親友だなんて思ってないし、もうそんなこと思わないよ」

ルークははっきりとした口調でそう告げた。
何の迷いもなく、当たり前のことを言うようにガイとの“友情”を否定した。







欺瞞の友







ルークは髪を切って以来、まるで別人のように従順になった。
ティアたちの言うことをまるで教師の言うことを聞く生徒のように聞き従う。
みんなはそれに満足し、変わったルークを上から見下すように誉めては“愚かだった”前のルークを詰り、ルークもそれを肯定し自分の過去を恥じる。
だがある時、ガイに「俺とルークは親友だからな!」と自信満々に言われたルークはきっぱりと否定を返した。

「俺はガイを親友だなんて思ってないし、もうそんなこと思わないよ」

けれど“あいつには俺がいてやらないと”というほど“親友”としての自分を疑わないガイには、ルークの否定はレプリカ故の卑屈さからくるものだろうとしかとれずに笑い飛ばした。
今までルークの真剣な苦悩を“卑屈”と罵ってきたのと同じように。

「なに卑屈なこと言ってるんだよ、レプリカだろうが何だろうが俺にとって本物はお前だって言っただろ?」

「お前こそ何言ってるんだよ?俺がレプリカってことと、お前を親友だと思わないことは関係ねーじゃん」

「・・・・・・ルーク?」
「ガイは俺の親友なんかじゃないってことも、親友だなんて信じてた俺は馬鹿でどうしようもない奴だったこともちゃんと分かってるからさ」

きょとんとしたルークの表情と?み合わない会話に、ガイも流石に何かがおかしいと感じたが、何なのかは分からなかった。
──罪の自覚がないままに、気付けるはずもなかった。

「ルーク!あなたなんてこと言うのよ、ガイに失礼でしょう!」
「ガイはずっとあなたを守ってくれていたあなたの親友ではありませんの!」
「違うよティア、ナタリア。俺が馬鹿だったから騙されていただけで、親友だったことなんか一度もなかったんだよ」

ティアとナタリアの非難にも、ルークはまるで当たり前のことを説明するように静かに否定を繰り返す。

「みんなもベルケンドでヴァン師匠から聞いただろ?。ガイはヴァン師匠の主人で、復讐を誓った同志だったって」

「あなたまさかガイのこと疑ってるの?昔はそうだったとしても、今は違うって言ったじゃない!」

「“今は”違うってことは分かってるさ。でも“昔は”ヴァン師匠の同志だったんだろ?ならガイは、俺がヴァン師匠に騙されているのを知ってたってことだよな。でも俺に何も言わずに、何もせずに、ただ騙される俺を見てたんだろう?」

笑いながら、俺はお前の親友だと言いながら、騙されている“親友”をただ見ていた。
見ているだけ、だった。

「師匠が俺をアクゼリュス崩落に兵器として使うつもりだったことまでは知らなかっただろうけど、でもそれがなくても何れ俺は父上への復讐のために殺される、たとえ殺されなくても信じてた師匠に裏切られて辛い思いをするのは分かってたのに、助けようとはしなかったんだろう?親友なら、騙されているのを放って置いたりしないだろ?」

ガイとヴァンが同志だったということを知った時、誰もが深く考えずに許していた。
ガイが今までルークにしてきたことなど、誰も考えもしなかった。
ガイ自身、これからヴァンの回し者スパイ になるかどうかだけを問題にして、それまでヴァンの回し者スパイとしてやってきた行為とについては、忘れ去ったかのように何ひとつ口にしなかった。

けれど、した方が忘れ去ってもされた方は忘れない、忘れられない。

ティアやナタリアも、流石にルーク自身の口から説明されて何も感じない訳ではないのか、それともルークの立場はナタリアが恋慕う“本物のルーク”アッシュ にも当てはまることに気付いたのか、気まずげにルークから視線を逸らしガイにやや非難の籠った視線を向けたが、ガイはそれでも見苦く叫ぶ。

「俺は、もうルークを復讐に使う気なんてない!」

「うん。わかってるよガイ。」

ガイがほっと息をついたのと同時に、ルークは淡々とした声で再び友情への否定を紡ぐ。

「だから俺とガイとの関係は、親友でも復讐者でもなくてただの他人、同行者?そんな所だろ?」

──親友だったことなんか一度もなかっただろう?

「ルー・・・ク・・・・・・」

ガイはようやく、ルークは既に自分を親友などとは心底、欠片ほども思っていないと悟った。
今まで目を逸らし続けていた自分の行動が、自分の罪がそうさせたのだと、悟らざるを得なかった。


ガイはルークを騙していた。
ルークはガイに騙されていた。
七年間の二人の友情はガイの欺瞞の上に成ったものだった。

ヴァンへの協力を止めたアクゼリュス崩落の後も、その欺瞞の友情の上にあぐらをかいてヴァンの共犯者という自分の真実の姿と向き合うことなく、ルークがヴァンに騙されたことやその結果させられたアクゼリュス崩落への責任を自覚することもなく、全てを明かして謝ることも償うこともなかった。
ただ臭いものに蓋をするように隠してきただけで、何もしてはこなかった。

親友面で感謝を要求した“迎えに来てやった”ことも、共犯者であったことが発覚してしまえば、詐欺師の共犯者が自らが突き落とした被害者を後で拾い上げて押し付けがましく感謝を要求するという歪なもので、到底友情など感じられるはずもない。

欺瞞が暴かれてしまえば、ルークがガイから友情を感じる行動など──その逆は数え切れないほどあっても──何も残らない。

まして“騙された”ことを否定し責めたのは同行者たちと、ガイ自身なのだ。
そのガイに“騙された”結果の欺瞞の関係をどうして肯定できるだろう?


「みんな、師匠に騙された俺を責めたよな。ティアも、何が起きているのか良く考えろって言っただろ?だから考えたんだよ。何が起きていたのか、この七年間のことを思い返して。そしてわかったんだ。ガイは俺の親友なんかじゃなかったって。ヴァン師匠の上辺だけの“優しい師匠”のふりに騙されていたのと同じように、ガイの上辺だけの“親友”のふりに騙されてただけなんだよな」

呆然としているガイたちに構うことなく、ルークはガイが親友であることを、ガイとの友情を、ガイを親友だと思っていた過去の自分を否定する言葉を紡ぎ続ける。

「俺、本当に馬鹿だよな。ガイに騙されて、親友だと思ってたなんて・・・・・・親友なのに、何で俺を誘拐したティアに怒りもせず仲良くできるのか、なんで俺の護衛をちゃんとしてくれないのかって何時も不満に思ってた。でも、親友じゃなかったんだから当たり前のことだよな。ごめんなガイ。“他人”のお前に、無駄な期待をしてたんだよな」

ガイが「幻滅されないでくれ」と言うよりずっと前から“親友”だと思っているルークを幻滅させ続けていたのだと今更のように気付いても、後悔しても、全ては遅すぎた。

もはやルークにとってガイは何の期待も抱かないほどに“他人”だった。


「でももうしないよ。もうガイに騙されたりしない。ガイが俺の親友だなんて馬鹿なこと思ったりしないから」


「だって、騙されるのは悪いことなんだろう?」















                        
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