「お義父さん!娘さんを僕に下さい!」
マルクト帝国首都・水上都市グランコクマ。
やっと叶った皇帝陛下への謁見にて、それがルークの第一声だった。
お義父さん!娘さんを僕に下さい!
「俺、彼女を愛しているんです!必ず幸せにしますから!」
「いや、ちょっと待てルーク殿」
「なんですか?俺、まだまだ子供で頼りないかも知れないけど、でも一生懸命彼女にふさわしい男になるように努力しますから!」
「その前に、彼女って誰だ?俺はまだ子を持った覚えはないんだが・・・・・・」
ヘマした覚えもないしなあ、と小さく呟く。
臣下はむしろヘマして欲しいぐらいなのだが四捨五入すると四十になる年になってもまだ往生際悪く独身を保ちたいのかするつもりもないらしい。
「・・・・・・タルタロスのことですよ。陛下」
懐刀の説明に、ぽかんと口をあける皇帝陛下。
破天荒で臣下を驚かせてばかりのこの皇帝も、流石に音機関へのプロポーズには意表をつかれたらしい。
それとも、音機関を自分の娘扱いにされたことの方だろうか?
どちらにしても、この皇帝を初対面で驚かせたルークは結構大物なのかも知れない。
「なんでタルタロスが俺の娘なんだ?」
「だって、タルタロスはマルクトの陸上装甲艦。つまり皇帝陛下のものでしょう?」
マルクトのものは皇帝のもの。
それはそうなのだが、何故それで娘だの父親だのと言う発想になるのか。
別に皇帝が作った訳ではないのだが。
と言うか女だったのかタルタロス。性別なんてあったのか。
「・・・・・・つまりお前さんは、タルタロスを嫁にくれと俺に頼んでいる訳か?」
「はいっ!」
皇帝は楽しそうに笑うと、高らかに言い放った。
「貴様のような男に娘はやらん!出直してこい!」
「ええっそんな!」
ちゃぶ台・・・・・・ではなく玉座をひっくり返して(!)怒鳴る皇帝に、ルークはショックを受けてその場に崩れ落ちる。
「陛下!ルークのボケに付き合ってどうされますか!」
「ハハッ、いや、娘を嫁に出す父親はこうするもんだろう?」
だからって玉座をひっくり返さなくても・・・・・・。
流石に皇帝は馴染みが早い。早過ぎる。
ジェイドは未だに馴染めてないと言うのに・・・・・・と言うか、パーティで馴染んでいるのはナタリアひとりだが。
アッシュなど、己のレプリカたるルークの恋愛観?にショックを受けて同行すら拒否してしまった。
「俺は諦めません!俺は、変わるって誓ったんだ!俺を見ていてくれるタルタロスに!」
「記憶がなくてまっさらだったお前を音機関マニアに育ちまったことはマジ反省してるから止めてくれえぇ!!」
「まあ、ガイったら。一世一代の結婚の申し込みに他人が口を出すなんて野暮ですわよ。友人なら温かく見守ってさしあげなさい」
友人だからこそ止めたいと思いますがね。
ジェイドはそう思ったが口に出しても無駄なことは旅の間に悟らされたので何も言わず涙でずれた眼鏡を直す。
「だからお願いします陛下!どうか俺達の結婚を認めてください!!」
「駄目だ。しかしどうしてもタルタロスが欲しいなら、もう一つの方法は許可してやっても良いぞ」
「もう一つ・・・・・・?」
結婚する以外に愛しいタルタロスを手に入れる方法があるのだろうか?
不思議そうな顔で見上げるルークに近付いた皇帝は、そのままルークを抱き上げた。
「俺はお前が気に入った!タルタロスがお前に嫁ぐんじゃなく、お前が俺に嫁いで来い!
そうすりゃタルタロスはお前の娘。お前のもんになって万事解決だ!!」
解 決 し て な い。 て か 余 計 こ ん が ら が っ た 。
全員が心の中で突っ込みを入れるが、無情にも、混乱はここで終わらなかった。
「娘・・・・・・タルタロスが娘・・・・・・なんだろうこの胸のときめきは」
「ルーク、それは『娘萌え』というものですわ!ああ、また新たな萌えの境地に達しましたのね。わたくしも従姉として祝福いたしますわ」
「光源氏計画とも言うな。俺はルークに光源氏計画。ルークはタルタロスに光源氏計画。みんな満足して言うことなしだ!」
ルークは男だとか、レプリカだとか、タルタロスが皇帝の娘なのは決定なのかとか、そうするとタルタロスはマルクト皇女なのか皇位継承権はあるのかとか突っ込み所があり過ぎて何から突っ込めば良いのか分からず固まっている周囲の人々を置き去りに、事態はますます混迷の度合いを深めて行くのだった。
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