ティアはルークのことが好きで、きっとルークも同じようにティアを好きなはず。
だから二人を結ばせてやるべきだと熱弁を振るって協力を求めるガイと、黙ってはいるが満更でもなさそうな様子で期待を込めて見つめてくるティアに、 ルークの妹の・フォン・ファブレは、天使のような可愛らしい微笑みを浮かべ、鈴の鳴るような柔らかな声音で告げた。

「ティアさんがルーク兄様の妻に、ファブレ公爵子息の妻になりたいのなら、まずは相応の“教育”が必要になりますわ。 ティアはさんは、その“教育”に耐える覚悟はありますの?」

本当にルークを想っているなら、まずはその想いの程を証明して欲しい。
協力するかどうかは、“教育”に対するティアの様子を見て判断する。

二人はそれを、市長の義理の孫とはいえ平民育ちのティアが貴族の妻になるには貴族教育が必要という意味に解釈し、即座に承諾した。
何時も家族や仲間から称賛を受けてきたティアは、内心では自分を優秀で、博識で、ルークのような馬鹿で無知な相手に教師のように説教する立場だと自負していたし、 貴族のお坊ちゃんやお嬢ちゃんというものに侮蔑を抱いていたこともあり、貴族教育など容易いものだろうと思っていたから。

そして“可愛い!”と叫んでしまいそうな、お人形のように容姿も態度も可愛らしいの優しそうな微笑みは、 早くもティアの胸中に姉のような気分を沸きあがらせ、幸福な未来を予感させていったから。

何よりもティアにとって、から悪意や妨害を受ける心当たりなど、少しもなかったのだから。







笑中に刃を研ぐ







「私はただ、ティアさんがルーク兄様の妻に、ファブレ公爵子息の妻になりたいなら必要な“教育”を行っただけですわ。 本当にティアさんがルーク兄様を想っているなら、受け止められると思っておりましたのに」

ティアが“教育”の開始からひと月も経たずにダアトに逃げ帰ったと聞いて、わざわざファブレ公爵家まで詰問に来たガイに、 は可愛らしい微笑みを浮かべたまま、柔らかな声音で答えた。

ティアへの“教育”を告げた時と変わらず、無邪気そうに、優しそうに。

「こんなに早く逃げてしまうとは、ティアさんのルーク兄様への気持ちはその程度のものでしたのね」

・・・・・・!ティアはずっとユリアシティで平民として育ってきて、貴族としての教育なんて受けてこなかったんだ。 生まれながらに貴族令嬢として育ってきた君とは違うんだから、もっと気遣って優しく教えてくれてもいいはずだろう? それにティアとルークが結婚すれば、君はティアの義妹にもなるんだぞ。将来の義姉に対してそんな態度はないだろう」

くすくすと小鳥が鳴くような笑い声を漏らしてティアとティアのルークへの恋心を軽んじるに、ガイは叱り付けるような口調で説教を始めた。

ルークのように育てたと自称するほど側にいた訳ではないが、親友や弟分だと思っているルークの実妹であり、 十歳も年下のに対しても、ガイは兄貴分や教師のような態度をとる所があった。

だから今度の件も、もしも兄をとられたくなくてティアに嫌がらせでもしたなら厳しく叱ってやらないと、 わがままを矯正してやらないと、というつもりになっていた。

そしてまだ婚約どころか告白もせず、ルークの方の気持ちを確かめてすらいないというのに、 ティアがルークと結ばれの義姉になる未来を確信しているガイは、 のティアへの態度を、姉に対して無神経な妹を見るような目で見て、叱りつけるような物言いになっていった。

それがの目にどう映るのか、そもそもルークの妹であるにとってガイはどういう存在なのかを考えることなく。
ベルケンドでヴァンが真実を暴露した後に、ルークの兄貴分や教師のようなガイの態度が、何かとルークにお説教や矯正しようとする振舞いが、 ルークの目にどう映っていたのか、そもそもルークにとってガイは真実はどういう存在なのかを考えることなかったように。

「あら、何か誤解があるようですわね。私がティアさんに行った“教育”は、貴族としての教養や礼儀作法といったものではありませんわ」

「・・・・・・え?だって君は、ティアがルークの妻になるのに必要な教育だって言ったじゃないか」

ガイは脳裏に当時の会話を思い返し、まるで嘘をついた子供を責めるようにを睨みつけたが、 いくら睨もうと叱ろうと、の微笑みも声も欠片も揺らがず、ガイが想像していた兄に叱られた妹のような反応など微塵も返ってはこなかった。

「ええ。ルークお兄様の妻になりたいなら、まずルークお兄様に何をしてきたのか自覚していただかないと始まりませんもの」

十歳も年下の子供の言うことを理解できない苛立ちと、無邪気そうな微笑みを崩さないへの言い知れぬ不安に、 ガイは普段女性相手にとっていたフェミニスト気取りの態度を保てなくなり、強い口調で問い詰める。

「君の言ってることはわけがわからない。一体ティアに何をしたっていうんだ!? もし乱暴や無神経な真似をしていたなら許さないからな!」

“乱暴”も“無神経”も、そしてずっとティアやガイがルークに向けてきた数多の責めも、 まるで彼ら自身について語っているかのように、軒並み彼ら自身に跳ね返る。
その滑稽さに、は浮かべている微笑みが失笑になりそうだった。

「ティアさんから乱暴や無神経を受けたのは、私たちやルーク兄様の方ですわ。 それをティアさんに教えてさしあげたら、ティアさんは余程受け入れがたかったらしく、 見苦しく逃避や反発を繰り返した挙句にとうとうダアトに逃げ帰ってしまわれたのですけれど、ティアさんのルーク兄様へのお気持ちはその程度ということでしょう?」

「またわからないことばかり・・・・・・!ティアがルークや君に乱暴や無神経な真似なんてするわけないし、したこともないじゃないか! ティアは厳しいし、ルークは世間知らずだからティアを怒らせてきつく叱られたりすることも多かったけれど、 それは世間や常識を良く知っているティアには、ルークの無知でわがままな態度が苛々させられるものだったからなんだ。 特にティアは戦いの厳しさを知っている一人前の軍人だから、あの頃のルークの頼りなさには呆れるのも仕方ないだろう。 君はもうすぐルークの家族になるんだから、ティアの厳しさや優しさを理解してあげないとだめじゃないか。 あからさまなものしか理解出来ないのも、他人を傷付けているのに気付かないのも、愚かな子供のすることだぞ。 わがままばかり言ってないで少しは成長しないと、幾ら君を妹みたいに思ってきた俺でもいい加減に怒るからな?」

ティアを庇うつもりでガイが語る言葉も、ティアへの数多の称賛も、 まるで彼ら自身の無知や無理解について語っているかのように、鏡となって彼ら自身の素顔を映し出す。

その醜悪さに、は浮かべている微笑みが嘲笑になりそうだった。

「あら。武器を振るいながら屋敷に押し入る、譜歌で攻撃するというのは乱暴や無神経な真似ではないと? 生憎は私はそんな常識は、誰からも聞いたことがありませんわ」

は僅かに首を傾けながら問い、ただ侵入しただけ、狙ったのはヴァンだけ、飛ばされたのは事故だと盲目的なまでにティアを庇うガイに“常識”を告げる。

「ティアさんはルーク兄様と私たちに出会った時、ナイトメアという譜歌で私やラムダスや使用人たちを攻撃しながら屋敷に侵入し、 中庭ではヴァン・グランツのみならずルークお兄様と、あなたとペールにもナイトメアで攻撃しています。 あなたはその目で、ナイトメアをかけられて苦しむルーク兄様を見ていたのでしょう? ナイトメアのような譜歌は攻撃譜歌に分類され、れっきとした武器になりますのよ。 武器を振るいながら屋敷に押し入り住人を攻撃したということなのに、乱暴や無神経な真似ではないのかしら。 確実な暗殺の狙いはヴァン・グランツだったとしても、譜歌の狙いはルーク兄様や私たちや使用人たちもですし、 ティアさんはナイトメアを事故で暴発させたわけでもなく、誰かに操られでもして発動させてしまったわけでもなく、 はっきりと自分の意思で譜歌を使い、ルーク兄様や私たちや使用人たちを狙い定めて、攻撃してきましたわ。 もちろん侵入も、ヴァン・グランツの家や神託の騎士団支部と間違えたわけでもなければ、他人の敷地内と知らずに誤って侵入してしまったわけでもなく、 はっきりと他人の敷地内と認識した上で、門を潜り警備の兵士を昏倒させて無理矢理に侵入しています。 超振動での転移は意図も予測もしていなかったとしても、屋敷への侵入とルーク兄様や私たちや使用人への危害は、 どう言い訳しても事故や過失と誤魔化せるようなものではありませんわ」

ナイトメアは眠りの譜歌、ティアはただ君たちを眠らせようとしただけ、危害を加えるつもりなんてなかったと、 ガイは尚も“無知”と“非常識”をもってティアの愚行を覆い隠そうとしたが、“常識”を知っている人間にそんなものが通じるはずもなく、 無意味どころかよりティアの“無知”と“非常識”を、そしてティアがルークやたちに向けた“乱暴”や“無神経”を強調する逆効果になっていた。

「あら、つい先程、ティアさんは世間や常識を良く知っている、戦いの厳しさを知っている一人前の軍人だと褒めそやしていたのはガルディオス伯爵ではありませんか。 ナイトメアは眠りや痺れの効果のみの譜歌ではなく攻撃力もあり、ユリアの譜歌の伝承どおりにその威力は下級譜術に匹敵しますのよ。 仮に眠りや痺れのみの譜歌だとしても、無理矢理の昏倒や麻痺は倒れた時に身体を打ちつけるなどの負傷を引き起こし、 頭を強く打つ、倒れた所に鋭利なものがあって切り傷を負うなどの重症になることも、最悪死亡する可能性だってあります。 あなた自身も、あの時中庭でナイトメアをかけられて、威力を危険をその身で知っているはずでしょう? ティアさんには“危害を加えるつもりなんてなかった”というなら、音律士なのに譜歌に無理解だったと、 一人前の軍人が自分の使う武器の威力や危険性も把握していなかったという“無知”で“非常識”になりましてよ?」

「で、でもティアはまだ若かったし、少し知らないことや未熟な所があったからってそんなに悪く言わなくても良いじゃないか。 それに侵入した時のティアは、ヴァンを前にして追い詰められていたから、何時もの理性や冷静さを失ってしまっていたんだろう。 侵入した時のことばかりじゃなく、何時ものティアの態度も考慮するべきじゃないか」

ルークに対しては17歳だと思っていた時はもちろん、実際は生まれて7年しか経っていなかったと分かった後ですらも、 何かと無知や未熟を責め、蔑み、アニスや気遣えばティアが傷付くと分からなかったことまでを成長していないと言い放ったその口で、 ティアに対しては若くとも知っていなければならないことや、知らないせいで多くの被害者を出したことにまで庇い、 好意的な推察や気遣いを当然のもののように要求する。
ティアの無知で出た被害の、当の被害者であるにまで。

その落差の大きさに、ガイが自惚れている弟妹分を矯正してやる兄貴分のような心地に空いている穴の大きさに、 気付きもしないガイの愚鈍さに、は浮かべている微笑みが冷笑になりそうだった。

「軍人が使う武器を、音律士が使う譜歌の威力や危険性を把握していないというのは、未熟で済まされる話ではありませんわ。 知っていて当たり前で、知らなければ到底一人前などと言えない、そういう“常識”です。 “知らないこと”だったなら、軍人が戦うのに知らなければならないことも知らずにいられるほど甘えていたと、 “眠らせようとしただけ”というなら眠らせた結果何が起きるのか考えようともしなかったほど考えなしということになりましてよ? それにあの襲撃の時には、実際に頭や胸を打つような危険な倒れ方をしたり、落とした食器の破片など危険物の上に倒れかけたりした者が何人もいたのに、 ティアさんは気遣うこともなく、譜歌を歌うのを・・・・・・私やマキたちへの攻撃を止めることすらなく、平気な顔で更に歌を攻撃を続けながら進んでいました。 例え最初はただ眠らせるだけのつもりだったとしても、実際にかけられた人々が倒れる様子を見れば違うと、危害を加えたと分かるはずでは? ・・・・・・自分のかけた“乱暴”のせいで倒れる人々を見てもなんとも思わないほどに“無神経”でない限りは」

玄関から侵入した後に、わざわざ屋根に上って飛び降りるという勧善懲悪劇のヒーローのような真似をしていることといい、 の眼には、当時のティアの様子は追い詰められて理性や冷静さを失っているというよりは、 自己陶酔に浸って現実を認識しなくなっているという風に映っていた。

そして今では、犯罪で出会って間もないルークへの居丈高で支配的な態度といい、 姉や教師のような自分自身に陶酔して現実の立場や関係や経緯を忘れ去っているような様子といい、 ティアには時も場所も相手も構わず演技染みた自己陶酔に浸る癖があり、その一人芝居に都合の悪いことはなかったことのように忘却し、 現実を認識しているのかも怪しいほどに、他人や事実に対して無思慮になる人間だと推察するようになっていた。

「襲撃の最中のみならず後のタタル渓谷でも、ルーク兄様に危害を加えた直後だというのに笑って危害を加えるつもりはない、 他人の屋敷に武器を振るいながら押し入り住人を攻撃したティアさん自身ではなく、された方のルーク兄様を盗賊と一緒にすれば怒るかもと放言を繰り返し、 何カ月も経った後にも、タタル渓谷で二人きりだった時を回想して、 ルーク兄様を“安心して背中を預けられる相手ではないと思った”と平然と言えるほどに変わりませんでした。 タタル渓谷で二人きりだった時とは、ティアさんが屋敷に武器を振るい住人に、ルーク兄様に危害を加えながら襲撃した直後、 ルーク兄様はティアさんに屋敷を襲われて何重にも危害を加えられた直後の被害者だったのに、 到底安心して背中を預けられない加害者のティアさん自身ではなく、 被害者のルーク兄様を“安心して背中を預けられる相手ではない”と思っていたことすら数カ月立っても疑問を抱きもしないほど、 ティアさんは屋敷への襲撃にも、ルーク兄様への危害にも、“無神経”なままでしたわ。 何時ものティアさんの態度を考慮すればするほどに、一時的に理性や冷静さを失った故ではなく、 何時も“無知”で“非常識”、“乱暴”で“無神経”だっただけとしか思えませんわ」

“安心して背中を預けられる相手ではない”

タタル渓谷で二人きりだった時を思い返してティアがルークに向けた言葉は、ティアの意図とは真逆の意味を持って、ティア自身に跳ね返る。

何重にも危害を加え、危険に晒した犯罪直後の加害者が被害者に対して安心して背中を預けられる相手ではないと思っていたなどということを 何カ月も経てから思い返してすらも疑問も抱かず、被害者当人に平然と言ってしまえるというのは、 そういう傲慢な思考が一時的な混乱によるものではなく、普段からのものと──ティアの本性だということになる。

そこまで言われて漸く、自分の庇い方がティアを庇うどころかより追い詰めていると気付いたガイはティアを庇う言葉を詰まらせて呻き、 それは今は関係ないだろうとティアへの“教育”に話を変えようとしたが、それは話を続けるのと同じだった。

「関係は大いにありますわ。私がティアさんに行った“教育”は、それを自覚させるものですもの。 出会った時に、ティアさんがルーク兄様や私たちやマキたちに何をしたのか。 どんな危害や危険性があったのか。 そういうことを平然とできたティアさんの知識や人格がどういうものだったのか。 そして、そういう出会い方をしたティアさんとルーク兄様は本当はどういう関係なのか。 ティアさんがルーク兄様や私たちやマキたちから見てどういう立場なのか。 ティアさんの一人芝居の役柄でも演技でもない、現実と、他人の眼に映る自分の実像を教えて差し上げたんですわ」

ティアはルークを好きで、ルークの姉や教師みたいで。
今までならすらすらと出ていただろうティアを称賛しルークとの関係を美化する言葉は、再び咽喉に何かが詰まったかのように出てこなかった。
本当はそう言いたかったが、流石にここまでティアがルークに加えた危害を、向けてきた無神経を、数多の欠点を突きつけられた後では躊躇われたし、 自分がティアに抱いている認識とは全くかけ離れたのティア観を、今までのように嫉妬や勘違いと言い切ることもできなくなっていた。

「出会った時に、ティアさんはルーク兄様、私たち、マキたち使用人をナイトメアで襲っています。 ナイトメアには先程言った通りの攻撃力と、何重もの危険性があり、大怪我や死亡の恐れだってありましたわ。 つまり出会ったその時に、ティアさんはルーク兄様や、私たちや、マキたちを傷付けていたし、大怪我を負わせたり殺していた可能性だってありましたのよ。 そんなことを平然とできたティアさんの知識や人格は、無知、非常識、無神経、傲慢、冷酷で、 そんな出会い方をしたティアさんとルーク兄様は本当は加害者と被害者という関係になりますわ。 ティアさんはルーク兄様、私たち、マキたちから見て、冷血で厚顔無恥な犯罪者、加害者や不審人物という立場。 ──、それを“知識”を備えた音律士や軍人、“被害者”のマキたち、“常識的”な第三者を交えて、 過去の記憶を再生する譜業を使って、教えて差し上げましたの」

ルークへの態度を見ても、恐らくだけが言っても、ティアは世間知らずでわがままな貴族のお嬢様のいうことくらいにしか思わずに、 故なく虐められている悲劇のヒロインのような気分に陶酔してしまうのが落ちだろうと考えたは、ティアとは違いちゃんと譜歌の威力や危険性を熟知した音律士や軍人、 ルーク同様ティアの被害を受けたマキたち、また医師として睡眠や痺れの効果を持つ薬の危険性を熟知しているシュウなど知己の人物で常識的な第三者を交え、 過去の記憶を再生する譜業を使ってティアの襲撃の様子を、やマキたちの眼に映るティアの姿を再現した上で“教育”した。

「甘やかされ、実際の人格や能力とはかけはなれた称賛を受け、実際の無知や無能、危害や無神経を叱られてこなかったティアさんは、 自分がルーク兄様にしたことを自覚しないどころか、まるでルーク兄様の姉か教師のように、 ルーク兄様がティアさんを気遣ったり従うことが当たり前のように思い上がっています。 このままティアさんがルーク兄様と結ばれれば、かつて出会った頃の兄様を“安心して背中を預けられる相手ではないと思った”と言ったように、 説教の前提条件すらも理解せず、増長した見当違いなお説教や非難を繰り返し、ルーク兄様を理不尽に傷付け続けるでしょう。 この“教育”を乗り越えられない限り、ティアさんはルーク兄様にとっての害毒以外の何者でもありません」

経緯や関係という大前提を無視しては、説教などできない。

姉弟や友人ならば無礼や無神経を責められる態度でも、加害者と被害者は違う。
信頼のある仲間同士ならば背中を預け合うとしても、犯罪で出会った他人は違う。

その前提を取り違えれば、被害者が加害者にとる態度を無礼や無神経と、 犯罪で出会った他人に背中を預けられる相手と思われないことを未熟と、非常識や見当違いを押し付けてしまう。
悪くないことを悪いと捻じ曲げ、理不尽に貶め傷付け、誤った変化を成長だと思い込むことになってしまう。

ティアがどういうつもりであれ、前提を無視したお説教など優しくも厳しくもなく、ましてルークのためにもならないし、 姉や教師のように振舞うなど分不相応極まりなかった。

「そして、本当にティアさんがルーク兄様を想っているというなら、 現実にルーク兄様に加えた危害を、強いた理不尽を、付けた傷を教えられれば、 己を恥じて、過去の愚行を悔い、ルーク兄様に真摯に謝罪しようとするはず。 ──でも、ティアさんは“教育”の度に自分の非から逃れようとしたり、前提を無視して見当違いなことを言ったり、 自分をルーク兄様の姉か教師とでも思っているような珍妙な態度をとったり、ルーク兄様の責ではないことをルーク兄様のせいにしたりするばかりでしたわ。 結局ティアさんは、ルーク兄様へ向ける想いを、ルーク兄様に命すら危うくするような危害を加えていたことすらも何とも思わない程度のものだと行動で証明したのです。 ──あの旅の間に、数え切れないほど繰り返してきたように」

ティアはルークのためにならない。
それどころか有害で、側にいればルークを理不尽に苦しめ傷付け貶める。
そして、ティアはその欠点を変えることも、変えようとすることも、認めることすらできない人間。

の眼に移るティアはそういう人間で、悪意と敵意の対象でしかなく、ルークの不幸な未来ばかりを予感させる存在だった。

「ファブレ公爵家としても公爵子息に、公爵令嬢に、公爵家の使用人たちに加えた危害にそのような態度をとる人間を、妻として迎えるなど到底できませんわ。 公爵子息の妻になるということは、公爵家に、また公爵家が抱える多くの使用人たちに対して責任を負うということなのですから。 ティアさんが今回“教育”に反発し逃亡したことは、またあの旅でティアさんがルーク兄様にとってきた態度は、 ティアさんがルーク兄様の妻や公爵家の一員として迎えられるような人間ではないということを証明していたことにもなりますの。 おかげでユリアの血筋を理由にティアさんをルーク兄様と結婚させようとしていたダアトの有力者たちも、 流石に公爵子息を譜歌で攻撃したり、命の危機に陥れたことすらも頓着しないし、教えられても反省はおろか認めることもできないようでは、 政略の駒としても使いものにならないと思ったようで、しつこかった縁談の押し付けがようやく止みましたわ」

「な・・・!!」

“教育”に対するティアの反応を記録した譜業を見たダアトの有力者やテオドーロは、一様に青褪めて頭を抱え、二度とティアをルークの妻になどという戯言は口にしなくなった。
そしてユリアの血を引くティアを聖女のように祭り上げることで信望を回復しようという目論見も泡と消え、ティアの姿すらダアトから消えてしまったという。

一生ユリアシティのテオドーロ宅で軟禁するのか、盲目的なユリア信奉者の男でも宛がうのか、愚行もできない状態にして嫁がせるのか。
何れにしても、もうティアには夢見ていただろう愛する人との幸福な結婚など望みようもないだろう。

けれど例えティアに女として残酷な未来が待ち受けているとしても、は同情など欠片も沸かなかった。

「君は・・・最初からそのつもりだったのか!?俺たちに協力するふりをして、俺たちを騙して、ティアを嵌めて・・・・・・!!」

「あら。私は協力するかどうかは、“教育”に対するティアさんの様子を見て判断すると言ったはずですわ」

ガイに詭計を責められてもは欠片の動揺も見せず、可愛らしく小首を傾げてあっさりとガイの非難を撥ねつけた。

そもそも、ティアがちゃんと突きつけられた現実を、他人の記憶に映る本当の自分を受け止め、 罪悪感や後悔を抱き、真摯にルークやたちに謝罪していたならば、過去の愚行は消えなくとも新たに愚行を増やすことにはなかったのだ。
それを甘やかしていた祖父からすら見限られるほどに愚行を繰り返し、もはや成長や改心の余地もないと行動で証明したのは、ティア自身だった。

そしてもうの義姉気取りででもいるのか、ガイたちに甘やかされて万人が同じように甘やかしてくれると増長したのか、 がティアに好意や気遣いを向けることを疑わず、ルークと結ばれるよう協力してくれると思い込み、 の悪意や妨害など想定もせずに罠にかかったのも、ティア自身の他人への無神経さや、罪悪感の欠如に起因していた。

「だって君は、それを微笑って告げたじゃないか!! 俺がティアがルークを好きだって話した時も、協力を頼んだ時も、君はにこにこ笑ってるばかりで、優しそうで、好意的に見えて、 とてもそんな悪意や企みがあるようには見えなかったのに・・・腹の底では邪魔するつもりだったなんて・・・・・・!! 君がそんな人間だったとは思わなかった!!昔はもっと優しくて、素直で良い子だったじゃないか。どうして変わってしまったんだ!?」

「あら。“あからさまなものしか理解出来ないのも、他人を傷付けているのに気付かないのも、愚かな子供のすることだぞ”。 つい先程、そう言ったのはガルディオス伯爵ではありませんか。 ──“あなた馬鹿?自分がほんの少しの悪意も受けることのない人間だと思っているの?”。 これはかつて、ティアさんがルーク兄様に向けた言葉ですわ。 ティアさんに自分のしてきたことへの自覚や罪悪感があったなら、“自分がほんの少しの悪意も受けることのない人間だと思っている馬鹿”でもなければ、 ルーク兄様の妹であり、あの襲撃の被害者のひとりでもある私が、 ティアさんにどういう気持ちを抱いているかは推察できたと思うのですけれど。 もっとも推察できるような人間なら、始めから襲撃直後のルーク兄様の態度を無神経だと呆れたり、盗賊にも劣るように詰ったり、 戦わせた上に護れと要求するなんて厚顔無恥な真似などしないでしょうね」

好意的に振舞いながら悪意を隠し、顔で笑って腹の底では陥れる。
それを責めるなら、何故と変化を嘆くなら、ガイはまず自分自身にそれを向けるべきだった。

確かに昔のは兄の友人のガイを邪険にはしなかった。
今でも心を許した友人や、ルークの新しい、今度は信頼できる友人になら、こんな態度はとっていない。
がガイに笑いながら企むようになったのも、そしてガイを“兄の友人”として見なくなったのも、 全てはガイ自身の過去に、ルークへの行動に起因している。

もっとも、それが推察できるようなら、ルークの友人や兄貴分を称し、臆面もなく説教や叱責を繰り返し、 自分の真実の過去からの逃避、ルークに加えた危害や裏切りへの無頓着さ、そしてルークへの冷酷さを行動で表し続けたりはしないだろう。

「それにルーク兄様の心身を危うくするような人間が、ルーク兄様の“家族”になろうとするのを妨害することに何か問題がありまして? 私は妹として兄の害毒になる人間を排除し、公爵令嬢として公爵家に相応しからぬ者が我が家の一員になるのを防いだまでですわ」

それでもティアが可哀相だと、何もこんな酷いやり方じゃなくてもと、尚も聞きわけない子供のようにを睨みつけて愚痴るばかりで、“兄の害毒になる人間を排除”という言葉が自分にも当て嵌まることなど思い至りもしない様子のガイに、 は隠していた悪意を、敵意を、本音を曝け出す。
かつて向けていた暖かな微笑みとはかけはなれた、信も真も含まない作り笑いをそのままに。

「──ずっと微笑って兄貴分や友人を名乗り、その実は腹の底では悪意や企みを抱え、ルーク兄様を利用するために騙していたヴァン・グランツに協力し続けて、 騙されているルーク兄様を見捨て続けていた、それらが一端を担ったアクゼリュス崩落後にすらルーク兄様に全て背負わせたて己の咎や責は隠蔽して、 変わらずルーク兄様の兄貴分気取りでいた、あなたのような“兄妹きょうだい”には、 なりたくありませんもの。ガルディオス伯爵?」

ルークのように育てたと自称するほど側にいた訳ではないが、親友や弟分だと思っているルークの実妹であり、 十歳も年下のに対しても、ガイは兄貴分や教師のような態度をとる所があった。

だから今度の件も、もしも兄をとられたくなくてティアに嫌がらせでもしたなら厳しく叱ってやらないと、 わがままを矯正してやらないと、というつもりになっていた。

しかしの眼に映るガイは、ずっと悪意と殺意をもってルークを騙し、騙されるのを承諾し、騙されているのを見捨ててきたヴァンの共犯者。
アクゼリュス崩落後も、共犯者と暴露された後にすらも、謝罪も自分が一因を担ったアクゼリュス崩落を共に背負うこともなく、 平気で笑顔を浮かべてルークの兄貴分や友人を名乗り続け、お説教や矯正しようとする傲慢で無神経な、現実から逃避した愚か者。
ティアと同じ、ルークの害毒になる人間、ルークの妹であるにとっての排除すべき敵でしかなかった。

そんなガイの叱責など堪えるはずがなく、兄貴分のように慕えるはずもなく、教師というなら軽蔑し嫌悪し、 自分は兄妹きょうだいにそうはするまいと戒めにする反面教師の方だった。

「・・・・・・・・・・・・」

張り付いたように変化のない可愛らしい微笑、音機関が再生する音声のように変化のない柔らかな声音。

一見すると好意的でも、優しそうでも、それは昔のが見せていたものとは全く違う感情の籠らないものだということに、ガイはやっと気がついた。
既に親しい使用人でも兄の友人や兄貴分でもなく、嫌悪され、敵視されている自分は、にとってはもう本当の笑顔を見せるような相手ではなくなっているのだと。

そして譜業でルークとの記憶を再生するまでもなく、今のの表情や声と、友人や弟分と呼んだ相手を陥れ裏切りを虚偽を重ねながら、上辺だけは笑顔を浮かべ、爽やかな声音で説教や綺麗事を繰り返していた 過去の己自身の表情や声との相似にも、それをルークとがどんな気持ちで見ていたのかも。

「あなたは何も変わりませんもの。 ルーク兄様がティアさんに気を遣わなかった、気持ちが分からない、傷付けていると──分からなくて当然のことにすら──叱責し、ティアさんに同情しながら、 一方でルーク兄様を何重にも危険に晒したティアさんの犯行も譜歌の攻撃も、前提を取り違えた姉や教師気取りの振舞いも咎めない矛盾した態度も、 自分がルーク兄様に繰り返した裏切りや傍観への罪悪感のなさも、 そのくせに恩着せがましく兄貴分を気取っていられる恥知らずでおぞましい自惚れも。 そしてティアさんが、あなたが、ルーク兄様の心身を傷付け、危険に晒し、死や重症の恐れがあるような危害を加えたことを、 なんでもないように無視してしまえるほどのルーク兄様への冷酷さも。 あの旅の間も、今も変わりませんものね。 だからきっと、あなたはこれからも成長も矯正もできない。 これからも何度でもルーク兄様を裏切り、見捨て、傷付け、自惚れ続ける。 そんなあなたが、過去に散々に兄の害毒になり、未来もなるであろうあなたたちが、 私から悪意も受けることのない人間だと思っていたのですか?」

あの旅の間、ティアとガイはルークが変われるのか見てやっているつもりでいた。
わがままで、無神経で、愚かなルークを、見張り、導き、変われたなら認めてやってもいいと、上から見下すばかりだった。

自分たちはまるで潔白で優れているかのように、罪も責任も変わるべきもルークだけと思っているかのように、 自分たちがルークに加えた罪や危害や裏切りや、そしてあれほど責めたアクゼリュス崩落への自分たちの関与や責任すらも、 後悔どころか自覚すらもしてこなかった。

例え他人には隠していても、責められなくとも、ずっと以前にヴァンの計画を立ち聞いていながらアクゼリュス崩落まで隠し続けていたことを、 ヴァンがアクゼリュス崩落に利用するルークを騙すのに協力し、騙されるルークを見捨て続けていたことを、彼ら自身は知っていたはずなのに。
知らなくても、そんなつもりではなくても責任があると他人には認めさせたなら、彼ら自身もそうしなければならなかったのに。

アクゼリュスが崩落した時にティアとガイがしたのは、自分たちの崩落への責任や関与は億尾にも出さずルークひとりのそれを責め立て認めさせ、 素知らぬ顔で仲間の非難に同調し、挙句の果てには監視や矯正してやる立場のように思い上がる、 悉く逃避と、無恥と、心根の醜悪さしか推察できない愚行ばかりだった。

他人には厳しいのに自分には何処までも甘く、都合の悪いことは簡単に忘れ去り、都合の良いことは前提も矛盾も無視して押し付けて、 現実から、真実から逃避し続けた果てに、ふと気付いて足元を見れば、己で掘った這い上がれないほどの深さの穴が開いていた。

今更になって、無頓着だった他人の眼に映る自分、他人にとっての自分の行動、自分が裏切り傷付け欺いた結果他人に負わせたものを自覚して、 が、何時からか態度を硬化させていったルークやナタリアが、そんな自分をどう思っているのかと思い至り、 身が竦むほどの怯えにかられたガイは、許しを求めるように、あるいは救いを求めるように、に手を伸ばす。

は微笑んだまま後退ってガイが伸ばした手を避けると、踵を返して扉に向かって歩いて行った。
ガイはが部屋を出て行ってしまうのかと思ったが、は扉を開けるだけで部屋に留まり、手だけを廊下に出して招くような仕草すると、直ぐに十数人の男たちが表れた。

それはペールと、ガイが女性恐怖症で結婚に不安があるため養子に迎えた遠縁の少年と、そしてピオニーの側近と近衛兵士だった。
側近の多くはガイを敵視していた者たちで、かつてのガイは皇帝のお気に入りへの嫉妬か、市井育ちへの侮り程度にしか考えていなかったが、 自分が人から行動に起因する悪意や敵意を受ける理由が充分にあると思い知らされた今では、とてもそんな軽視はできなかった。

そしてティアを微笑みながら陥れ排除したが、同じように敵視し危険視しているガイをそのままにしておくはずがないと漸く思い至ると、 普通ならファブレ公爵家にいるはずがない彼らが揃って扉のすぐ側に待機していた理由にも察しがついて、 足元の大穴に突き落とされるような錯覚に足が震え、崩れ落ちるように膝をつく。

その場の誰も、ペールや息子ですらもガイを助け起こすことも、気遣う言葉をかけることもなく、 敵意を隠そうともせず、あるいは感情を封じ込めた冷淡さで、次々にガイを更に追い詰める言葉をかける。

「他国の王位継承権を持つ公爵子息の婚姻に口を出し、公爵家が既にルーク様のお相手として不適格の烙印を押したような女を押し付けようとした挙句に、 王位継承権を持つ公爵家の姫君にこんな無礼な態度をとるとは・・・・・・」

「やはり皇帝陛下のご懸念通り、ガルディオス伯爵は乱心しているようだ。 二度と愚かな真似を仕出かさないよう適切な措置をとるのが、本人と家のためでもあろうな」

「皇帝陛下は御寛大にも、貴様の隠居と、二度と愚行を晒さぬ措置とをもって、ガルディオス伯爵家の存続は許すとの仰せだ。 幸いにも、貴様は既に養子をとっているし、独身を通していたおかげで、未亡人同然の境遇になる哀れな女性も出さなくて済んだな」

「義父上、首都から遠く離れた地に別邸を用意いたしました。 再び乱心の挙句に馬鹿なことをしでかさないように厳重に御守りする護衛もつけましょう。 ガルディオス家のことは何も心配はいりませぬ故、義父上はもう何もなさらず、どうか余生を静かにお過ごしください」

育ちではなく現在の言動への非難と侮蔑、屈辱的な乱心者扱い、ガルディオス家の当主の身分の喪失、息子からの監視付きの生涯軟禁の宣告、 そしてペールがそれらに抗議もガイを庇いもせず、彼らに黙って従っていることに、更に力を落としたガイは、膝立ちすらできなくなって床に手をついて頭を垂れた。

伯爵に復帰したとはいえ領地を持たずろくな財力もなく、貴族社会への参入も浅く、マルクトの貴族から、特にピオニーの側近から良く思われてはいないガイの立場は、 他の貴族や臣下よりもずっと脆弱だから、決して迂闊なことはせず身を慎むようにとジェイドから何度も忠告されていたことと、 その時にジェイドが挙げた幾つかの例に、度重なる問題と反省のなさにとうとう我が子を含む親族や長く使えた家臣からすら家を危うくしかねないと見限られ、 病気療養の名目で生涯軟禁された貴族の話があったのを思い出して、過去の自分を殴り飛ばしたいような気分に陥った。

その時のガイは、ジェイドは心配しすぎだと笑い飛ばしたり、 そんな自業自得で破滅した馬鹿貴族の話なんて俺には関係がないと深く考えもしなかった。
今になって思い返せば、その時も、あの旅の間にも、ガイが自分の愚かさに、積み重ねた裏切りに、他人の気持ちに、 そして自分の立つ場所の危うさに気付く機会は何度もあった。
なのに自分の都合の悪いことには目を逸らして忘却し、他人に無神経に無頓着に甘えてきたガイは、何度機会があっても反省も成長もしてはこなかった。

“ルーク・・・・・・あんまり幻滅させないでくれ”

かつてルークにそう言いながら、ガイは自分自身が他人から幻滅されることなど考えもしなかった。

“アホが。あからさまな優しさしかわからないのはただのガキだぞ”

“私に気を遣うなら、ルークは別の人に気を遣った方がいいんじゃないの?”
“この間から、すっごい傷つけてるの気付いてないんだ”
“そういうとこは成長してないからな”

そう何かにつけてルークに他人の気持ちを察しろと、できないのは未熟だと責めながら、ガイは自分自身が他人の気持ちを察しようとはしなかった。

己が一旦を担ったアクゼリュス崩落やヴァンが真実を暴露した後ですらも、変わらなかった。変わろうともしなかった。
ルークにも、ピオニーにも、彼らを大切に思う人々にも無神経に無頓着に過ごしてきた自業自得が、 陥れられ、排除され、見限られ、二度と取り返しのつかないこの末路だった。


罪人のように乱暴に連れて行かれるガイが最後に見たは、天使のような可愛らしい微笑みを浮かべて、鈴の鳴るような柔らかな声音で、連行されるガイをただ眺めながら別れを告げる姿だった。
ティアへの協力を求めた時と同じように、そして恐らくは“教育”から逃げだしたティアを見送る時や、 ダアトの有力者たちに譜業で“教育”の様子を見せた時と同じように。
張り付いたような微笑と、音機関の再生音のような声音のままの、かつてのガイの欺瞞を映したかのような姿だった。

その姿は悪意をあからさまにした表情や声よりも深くガイを打ちのめし、そして脳裏に焼きついたように常に、生涯ガイを苛み続けた。

生涯で最後のの記憶として、同時にルークとの記憶に残る、自分自身の映し身として。













が使った譜業は、ナム孤島のサブイベント「ムービープレイヤー」に出てきた記憶を再生する譜業の改良版です。





                        
戻る